芸術家・美空ひばり

Vol.2-6.24-527  芸術家・美空ひばり
2021.6.24

今日は美空ひばりの命日である。

美空ひばりは平成元年6月24日、昭和に別れを告げるように52歳の若さでこの世を去った。

すでに死後32年になる。若い世代はもうひばりの現役時代を知らない。しかし未だにテレビの中ではまだ生きているがごとく歌っている。

なかにし礼氏が、彼女のブレスはどんな精度の高いマイクを使っても集音できない。とその天才的ブレスを称賛したように、彼女の歌唱に対する高い評価があまたある中で、クラシック界をも驚かせたのが、指揮者・岩城宏之氏が週刊朝日に特別寄稿した追悼文だ。

その内容の一部である。

「あなたは2百年分生きた芸術家だ」

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すれ違った瞬間、すさまじい殺気を感じた。
昔の剣豪や西部のガンマンではあるまいし、ぼくにはいわゆる修羅場をくぐった経験が皆無である。だから殺気なるものを全く知らない。

しかしラジオ東京の廊下で受けた、全身に電気がかけめぐったようなあの戦慄は、「殺気」としか表現しようがないのだ。ゾッとしたというような生易しい気迫ではなかった。とにかくおそろしく、そして怖かった。今にも背中を斬りつけられる気がした。
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僕は長嶋選手、バリトン歌手のヘルマン・プライ、そして山口百恵さんの熱狂的ファンである。部屋で独り言をいうときでも「さん」付けでつぶやく。

この3人に対比する存在として、王選手、バリトン歌手のディートリッヒ・フィッシャーディスカウ、美空ひばりさんがあった。心の底から尊敬する対称なのである。

しかし3人ともあまりに完璧なひとたちなので、どうも熱狂できなかった。ファンであるためには、こちらをどこかでハラハラ、ワクワクさせてくれる要素が必要だ。共に泣き、ともに喜びたいのである。
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ひばりさんの歌唱は、どんなときに聴いてもパーフェクトだった。テレビだけではない。何度も実演を見に行った。

彼女のパーフェクトぶりを、冷たいとは感じなかったけれど、あんなに上手に歌わなくてもいいんじゃないか、といつも思った。一寸の隙もない芸術には、どこか不幸感がつきまとう。完全無欠さを背負う宿命への同情と言ってもいい。同業の音楽家としての、ぼくのひばりさんへのこの感慨を理解してくれる方は少ないかもしれない。

しかも、テクニックを感じさせない上手さがニクイ。脱帽し、尊敬すほかはない。
世界中で、これほど完璧に音程のよい歌手は存在しなかった、と断言できる。

専門的なことになって申し訳ないが、ときどきDフラットあたりの、彼女にとっては高音からのピアニッシモで歌い出すとき、アレッと思うことはあった。ほんの少しだけ音程が低いとい感じた。

しかし、その音を、ひばりさんはノン・ビブラートで始め、一瞬後にビブラートをかけて見事な美しい音程にしてしまう。結局は彼女の思う壺で、もともとこの効果を出すためだったのがわかるのである。
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ひばりさんはいわゆる音楽教育を、一切受けていないはずである。生まれ持った才能、つまり天才だっただけなのだ。
音楽史上唯一の「天才」は、モーツァルトだけだというのが常識である。
しかし、ぼくはこの言葉をためらいなく美空ひばりさんにも使いたい。
(1989.7.7週刊朝日)

・・・と岩城氏のひばり賛辞はまだまだ続く。
クラシック界からはこの特別寄稿に驚きの声が上がったほどだ。

ところでディートリヒ・フィッシャーディスカウとは「20世紀の最高の声楽家の一人」「20世紀で最も影響力のある歌手」と評されたオペラ歌手である。その歌手と同等に扱われるだけで光栄である。

ひばりファンとしてはこの上ない喜びとするところだ.。

ジジイも岩城氏と同じ長嶋・ひばりファンである。長い間ファンを続けていると、まるで身内のような存在になり、他人に褒められることが喜びとなる。

ジイは死の直後に発売されたひばり報道の多くの新聞、週刊誌、雑誌を買い求めた。久し振りに見たが、新聞の変色に32年の時を感じる。

ジイが初めて美空ひばりの歌を聞いたのは小学生の頃、近所のおじさんがよく歌ってた
♯~これこれい~しいの地蔵さん~西へゆ~くのはこっちかえ~♭
という「花笠道中」である。今でもその歌の響きを田舎の雰囲気とともに思い出す。

あれから60年以上が経った。
個人的には “ 津軽のふるさと ” が好きなのだが、岩城氏とは若干違いあらゆる超一流にジイは惹かれる。

ジャズ、民謡、都都逸、端唄、長唄、演歌、どれもいいが、やはり邦楽歌唱に超一流を感じる。声帯は他の歌手にはない別物である。

さらに、女性ではあるが男歌に独特の魅力がある。いくつもカバー曲があるが天下一品は「無法松の一生」である。

この歌こそ、最も「美空ひばりの特質」を表した歌ではないか。聴くたびに持ち歌であったらなあ~、といつも思ってしまう。

ああ、もう32年、、、今宵はちょっと趣向をかえ、“ スター・ダスト ” で偲んでみるか。

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Posted by 秀木石