近未来の培養肉
Vol.3.01.13-730 近未来の培養肉
2022.01.13
テクノロジーの進化もすごいが、食品の世界でも猛烈な勢いで進化している。
ラジオから流れてきたのは最近注目されている “ 培養肉 ” の話だ。
培養肉とは、簡単に言えば食肉の細胞を培養して増やして固めて肉にする。という手法で作られる。
大豆などの植物性たんぱくで作った肉のような味わいや食感に近づけたものではなく、家畜とか魚などの筋肉から少量の細胞を取り出してそれを体外で組織培養してつくられるいわゆる人口の肉である。
何故、培養肉が求められているのか、あるコンサルタント会社の常務によれば、
1、牛肉は生産にかかるエネルギーコストが莫大。1kgの牛肉を生産するのに必要な飼料が11kg、さらにこの飼料を生産するのに2万リットル水が必要になるとは驚きだが、非常に環境への付加が大きいということだ。
2、ストレスのかかった家畜生産環境が問題となっている。どうしても効率的な生産を求めるため狭い場所で飼育される牛やブタ。さらに短い期間で成長させるために抗生物質やビタミン剤などが投与される。さらに、牛の飼料になっているのが、本来牛が食べない穀物のトウモロコシなどが使われていて動物に大きなストレスをかけながら生産されているのが現状である。
まだ、証明はされていていないが、現在の飼育方法では感染症のリスクの懸念もある。
以上のような理由で培養肉への関心が高まっているというのだ。
世界に先駆けて、この培養肉を食用として販売計画を打ち出したのがシンガポール。
2020年12月にアメリカのイートジャスト社が製品化に成功して「チキンナゲット」が販売開始になったという。
今年はシンガポールの大衆食堂でも取扱ができる見込みになり、一般のレストランに並ぶ日も近いという話だ。
何故、シンガポールなのか。シンガポールが先駆けてこの培養肉の取り扱いに関心があるのは、食糧の9割を輸入に依存している事情がある。彼らは2030年までに食料の自給率を30%までに上げることを国策として掲げている。
アメリカでは、すでに数社が開発に乗り出していて今年には商品化して販売する可能性を示唆している。いよいよという感じを受ける。
ところで、日本はということになる。まだまだ、シンガポールほどではないが、日清食品ホールディングスが東京大学の生産技術研究所の竹内教授と2019年3月にサイコロステーキ状の培養肉の生産に成功したということだ。2024年までに基礎技術を確立するということで発表されたということだから、日本でもそう遠くない未来に培養肉が食卓に上がる可能性はある。
ただ、日本の場合は慎重である。まだまだ、一般販売には時間がかかるとみられている。
今、アメリカが先行しているが、安全性もさることながら、スタートするにあたり、ラベル表記が課題となっている。将来を左右する最も重要な要素である。
例えば、
◆どこで培養され、どんな培養方法でつくられたか、
◆肉の名前をどうするか、
*①幾何学的名前や、②人口肉 ③培養肉 ④ラボグローンミート ⑤細胞肉、、、などはもともと肉が持っている美味しさとはかけ離れた印象をあたえてしまう。呼び方は非常に難しい。
このネーミングを間違えると、価格とか普及スピードに大きく影響してしまう。非常にデリケートな問題を含んでいて大きな悩みとなっている。
それ以外に、生産段階で細胞の増殖が急速に進んでいる牛の胎仔の血清などが使われる。これは、家畜を処分して得る必要がある。動物愛護の観点からもそもそもの意義を損なう難問もクリアしなければならない。
このようにいろいろな問題を抱えながらも、消費者目線で、何が安全で、何がリスクなのか、わかりやすくメッセージを出すことが信頼を得る大きなポイントになる。
しかし、いろんなリスクを抱えながらも近未来の培養肉への期待は大きい。
恒常的的にある発展途上国や内戦避難民の食糧不足、いろんな事情で食糧不足が深刻化していく中、家畜の感染症で食肉の流通が止まるリスクもある。
培養肉生産システムの稼働は、消費地での持続的な食糧生産が可能になるだけでなく、感染症などの自然環境の危険にさらされた食肉よりも、由来が明確な細胞や培養液を使った培養肉の方が安全性は高いという見方もある。
さらに、新しい価値を創出する可能性もある。例えば、宗教上の理由などから口にする食品の種類が制限される人たちが、より多様なモノを食べられるようになる。また、培養した細胞を一定量ストックしておき、オンデマンドで食感や味を作り分けて供給すれば、食品ロス対策としても活用できるかもしれない。ストックした細胞が余っても、栄養成分の形に簡単に戻せるので再利用しやすい。
そんな夢のある近未来が語られる同じ地球上で、今日の食のために幼い娘を売る、自分の臓器を売る。そんな悲惨も同居している。どうにかならないものかと思うが、将来培養技術が彼らの救いにつながれば、なお
最高である。
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