2時間28分 “ 夢の長考 ”

日本,雑記

Vol.3.02.16-764   2時間28分 “ 夢の長考 ”
2022.02.16

ご存知の通り、藤井聡太4冠が、将棋第71期王将戦7番勝負に渡辺明王将に勝利し、5冠となった。

恐るべし、19才6ヶ月の若き棋士である。

最初のタイトルを取った時も、4冠になった時も、この度の5冠達成の時も、決して高ぶることなく、冷静かつ謙虚な姿勢はまったくかわらない。

かといって、ぶすっとして “ 食えないヤツ ” のようなところもなく、ただただ19歳の清々しい好青年である。

報道陣の記念撮影も気楽に応じ、言われるままにケーキ型の風船を手にする実に素直な青年である。

ところがどっこい、さすが5冠。記者に
自身の『現在地』について、富士山登山に例えて、「今どのくらいまで登っているか」と問われると

『将棋は奥が深いゲーム。どこが頂上なのか全く見えない』とした上で、
『森林限界の手前というか、まだまだ上の方には行けてないと思う』と答えた。

質問した記者も「森林限界」の意味がすぐに分かったかどうか、普段聞き慣れない言葉が出てきた。ジイなどは( )書きの「森林を形成できない境界線で、富士山では5合目付近」との解説で初めて知った。

将棋に向かう姿勢、言葉からも一切浮ついたところが見られない。タイトル戦に臨むときの記者の質問にも、「みなさんに楽しんでいただける将棋を打ちたい」という。

「勝ちたい」ではなく、「楽しんでいただける将棋」なのである。

自分が好きで好きでたまらない将棋、その将棋を楽しんでいただける将棋を打つことが自分の使命としているのではないか。

だから、勝つより、強くなりたいのである。

今回の王将戦でも第1局で見せた、常識を覆す序盤の一手は人口知能をも含めたあらゆる研究の成果との評価がある。それも藤井棋聖の言う、楽しんでいただける将棋の一手でもあったのではないかと推測する。

しかし、この王将戦で最も驚いたのは第2局、昼食休憩を終えた午後、渡辺王将の一手に思考に入った時だ。

考えること “ 2時間28分 ” の長考である。

東京で新幹線 “ のぞみ ” に乗って、大阪に着くまでの時間である。そこまで考えてやおら1手を打つのである。1本の長編映画を見終わる時間だ。

ジイなどのへぼ将棋はせいぜい30秒、長考なんておこがましいが、1分もあれば最長考だ。“ 2時間28分 ” 頭の中がこんがらがってしまいそうだ。いくつの手を想定し、そのすべてを詰め切るまでのシナリオを頭の中だけで完結させ、その中で最善手を打つ。

師匠の杉本8段に言わせれば「楽しい時間だったのでしょう」ということになる。

“ まいった! “ としか言いようがない。

将棋に恋した青年、久しぶりのデートで彼女をどう楽しまそうか?悩ましくも楽しい夢のような “ 2時間28分 ” だったのだ。

藤井棋聖は持ち時間の長い将棋が好みで、じっくりさせる長時間の将棋を得意とするそうで、王将戦は自分に合っていたということだろうか。

年度勝率、通算勝率ともに8割を超す。タイトル戦では25戦4敗と圧倒的強さを見せている。

いよいよ8冠独占が現実味を帯びる。

現タイトルは8つあって、序列がある。
竜王、名人、叡王、王位、王座、棋王、王将、棋聖である。

しかし、将棋界簡単ではない。プロ棋士は180名ほどいる。

最高位は九段。以下四段までが正式なプロ棋士。三段以下は養成機関である奨励会となる。その下は1級 ~ 一番下は6級まで。

藤井棋聖は現在B級1組である。名人戦を闘うにはまずA級順位戦に勝ち抜きA級昇進を果たさなければならない。

しかし、王将戦が終わった後も長時間自分の将棋を振り返ったそうだが、将棋を愛し、愛されたまさしく将棋の申し子である。全ての階段の1歩が楽しみでしかないのである。

将棋に恋した青年。その将棋を愛し、とことん強くなって、見る人に『こんな将棋もあるんだ』と楽しんでいただく、『熱戦となるには強くならなければならない』、これから挑戦する、名人、王座、棋王、は超美人とのデートのようにワクワク以外、何ものでもないのであろう。

さあ!次はどんな “ 熱戦 ” を見せてくれるのだろうか。

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Posted by 秀木石