井上尚弥・強さの本質

スポーツ,世界,日本,雑記

Vol.3-6.10-878    井上尚弥・強さの本質

2022.06.10

今さら言うまでもない。

井上尚弥が7日さいたまスーパーアーナで行われたボクシングのバンタム級世界3団体統一戦が行われ、WBC王者のノ二ト・ドネアを2回1分24秒TKO、圧倒的強さで勝利した。

思い起せば2年前 2019年11月、階級最強を決めるワールド・ボクシング・スーパーシリーズのバンタム級決勝でドネアと初対決。2回にドネアの左フックで右眼窩底など骨折しながらも11回に左ボディーでダウンを奪取、国内外で年間最高試合に選出された激闘を演じた。初めて井上が倒されるのか?と思った試合である。

翌日に横浜市内で臨んだ記者会見で、井上がドネアとの12回を振り返っている。

その内容の一部だ

●第2ラウンド
井上「先に左フックでぐらつかせ、早い段階で試合が終わると感じた。その後の(約50秒後の)左フックですべて変わった。

●第3ラウンド
井上「(右目上)カットは何も問題なかったが、眼球のダメージを負って視界がぼやけた。ドネアが2人いるような状態が最終ラウンドまで続いた。ドネアが2重に見えるため、左フックを使ったポイントアウトに切り替えるしかなかった」

●第4ラウンド
井上「ドネアにどう伝わったかはわからないけれど(右目の重傷は)隠し切っていたように見える。自分の目の状況が相手に伝わっていたら倒しにきていると思う。それがなかったから自分の冷静さとゲームプランがうまくマッチしたのだと思う」

●第5ラウンド
井上「右目がぼやけているので、自分が踏み込んでの右ストレートは打てる状況ではなかった。それを瞬時に距離感を図りながら打てたのは自分の適応力を感じた」

●8回
井上「出血が多くなり、血が目に入って逆に視界がなくなって良くなった。右目が見えないので、ぼやけてみえることがなくなった。グローブで隠す必要がなくなってラッキーだったと考えた。いいように流れてきたと」

●9回
井上「右ストレートを受けて正直、効きました。持ちこたえられたのは息子の存在が大きい。バチンと打たれた時に息子の顔が目に浮かびましたから。そこで持ちこたえられた。ボクシング経験で家族の顔が浮かんだのは初めて。家族の存在がボクシングに与える影響はでかいと思った」

●11回
井上「(ダウンを奪った)右アッパーからの左ボディーは完全に狙っていました。」

●12回
井上「11回にダウンを取れて最終ラウンドは気持ち楽に見せ場をつくることができた。(最終ラウンド始まる前に鼓舞したのは)ファンのアシストがほしくてああいう動きをした。プロになってから、あのように競った試合は初めてで。あらためてファンの後押しの大切さを感じました

・・・まさしく壮絶な試合、「国内外で年間最高試合に選出された」のが実感できる試合だった。いろんな意味で、彼をワンステージ上げた試合だったように思う。

満を持しての今回の世界3団体王座統一戦。
「練習してきたことが体に染みついて試合をできていた。百点をつけられる内容」と振り返った。

そして「今一番したいことは」、と聞かれると、「練習がしたい」と即答。これが井上の強さだ。

~ 先ずは海外の反応から振り返りたい ~

◇米スポーツ専門局のESPNは
「ボクシングのスーパースターの井上 “ モンスター ” 尚弥がドネアを2回KOで倒し、WBCバンタム級王座を加え、23勝0敗と成績を伸ばす」との見出しを取り、「彼らは井上を “ モンスター ” と呼ぶ正当な理由がある。2019年11月にドネアと最初に対戦した時、井上は、ESPNの年間最高試合に選ばれた試合で初めて本当の力が試された。彼は、その夜、判定でドネア(42勝7敗、28KO)を破った。だが、31カ月後、日本の埼玉であった統一戦で、井上は、この将来の殿堂入り選手を2回TKOで簡単に片付けた」と伝えた。

◇米で権威のあるリング誌は
「井上がドネアを2度ダウンさせ、圧倒的な2回TKO勝ちを収める」との見出しを取り、「丘を越えてくるものは何だ?そうだ、それは “ モンスター ” だ。井上がドネアから猛烈で決定的な2回TKO勝ちを収め、WBCバンタム級王座を彼が持つRING、WBA、IBFのタイトルに加えた」と報じた。

◇英ガーディアン紙は
「井上がドネアをノックアウトし、パウンドフォーパウンドの論証を強固なものとする」との見出しを取り、井上は試合開始のゴングから唯一無二のパワー、スピード、フットワークのコンビネーションを見せ、このラウンド終了近くにドネアに向かって踏み込み、まるで赤外線誘導式ミサイルのような右のパンチで彼を倒した。

◇ドネアの地元のフィリピンスター紙は
「井上はドネアにとって強過ぎた」との見出しで、「埼玉にドラマはなかった。全盛期の選手である日本の井上は、残忍なファイトを見せ、数発の素晴らしい一撃を放ってフィリピンのドネアJr.を倒すのに2ラウンドを必要としなかった」と絶賛した。

モンスター井上の強さはどこにあるのか

1、ドネアとの闘いの後「練習がしたい」と即答したボクシングに向き合う姿勢
2、指導者である父親の厳しい指導で鍛え抜かれた精神

そして<阿川佐和子>氏のインタビューにそのヒントがある

Q : 対戦相手に対して思うことは?
A : 本当に強い人はみんな紳士ですよ。相手をリスペクトしているし、パフォーマンスで相手のことを悪く言ったりもしない。

Q : 試合中に、相手を憎たらしいとか思うことはない?
A : そういう感情はいっさいないです。勝つために何をするかしか考えないですね。憎たらしいとか、余計な感情が入ったら、それができない。

Q : 私みたいなボクシングに詳しくない人間でも見入ってしまうくらい、美しい試合をなさっていて。
A : 僕自身、挑発するとか、そういうパフォーマンスではなく、ボクシングだけで注目してもらいたいという気持ちがすごくある。

Q : 今後、どういう風にボクシング界を盛り上げていきたいですか?
A : ボクシングに興味のなかった女性や、同世代の若者に試合を観てもらいたい。今の状況を時代のせいにしたくない。

◆インタビュー後の阿川氏の感想である。
「スポーツというより他人様の喧嘩を見ているようで、率先して観戦する気にならなかったのですが、このたび井上選手の過去の試合の映像を見まくりましたら、まあなんと上品で、圧倒的な強さであられることか。そしてお目にかかってみれば、さらにその思いが強くなるばかり。傷一つないすべすべとした肌、優しくも愛らしい笑顔、鋭い瞳、謙虚でわかりやすい言葉の数々。対談の途中、愛の告白のごとき台詞が出かかるのを何度押しとどめたでしょう。『本当に強い人はみんな紳士ですよ』とはまさに井上さんご自身のことです。

この感想に集約されるような気がする。

海外メディアも絶賛の嵐。モンスターの評価がワールドレベルで急上昇。

どんな世界であろうと、突き詰めれば人間性に行きつく。穏かで優しい人相の中に何かを確信する鋭い眼、すべては人相に表れる。

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