人生を語る駅ピアノ

世界,日本,雑記

Vol.3-6.26-894   人生を語る駅ピアノ

2022.06.26

NHKBS「駅ピアノ」という15分の番組がある。

駅や空港ロビーに置かれた、誰もが自由に弾けるピアノである。

仕事帰りの人もあれば、旅行の途中、外国帰り、学生などなど、人種も職種も様々。ピアノに心得のある人が気軽に弾けるフリーなピアノが多彩な人生を語るのだ。

《 場所はオーストラリア・ブリスベン空港 》

搭乗ロビーに赤いピアノのが置かれている。

◆最初に現れたのは30代と思われるアメリカ人英語教師
弟に会いにブリスベンに来た女性 赤いインナーに縦じまのシャツ Gパンに長い髪

弾きだしたのは久石譲「Summer」映画「菊次郎の夏」の挿入歌だ
ピアノ歴12年 久石譲ファン。

1年前 マレーシアに単身赴任 家にはピアノがない
(だから)どこでも弾けるよう 楽譜を持ち歩いている

「『Summer』はとても美しい曲で 想像力がかきたてられるの
忙しくて大変なときも癒されるわ」と言って優しく微笑んだ

 

☆2人目は中国出身の会計士

薄いピンクでタイトなワンピースニット?ミニ
髪はしっかり後ろで縛り いかにも中国版・キャリアウーマンという感じだ

ピアノの前に座ると 映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」より『彼こそが海賊』という曲を弾きだした

ピアノ歴30年 「この曲は美しくダイナミックで好き」という
がたいも立派 何となく理解できそうな選曲だ

会計士の勉強でブリスベンに留学 すっかり気に入り そのまま移住したそうだ

「いつかピアノを教える仕事もしてみたいわ」・・・端正な顔が笑顔になった

 

☆3人目は建設現場監督 64歳の男性

建設現場監督をリタイアしたばかり ブリスベン在住で北京の友人に会い行くところだという

いかにも豪傑そうだ まさかピアノを弾くとは思えないような容姿
リュックを担いだままピアノの前に座った

曲はジャクソン・ブラウン「ロージー」

この日は10年ぶりに弾いたらしい しかしなかなかうまい
現場監督らしく力強い弾き方だ 若い頃はギターにピアノ 音楽三昧だったという

弾き終って 「1970年代半ばの僕だよ」といってスマホにあった若いころの画像を見せた

「人生のいい時期だったなぁ」
「ロックンロールを歌って 演奏してたんだ」と目じりが下がった

「音楽って いつどこで聴いたのか覚えているよね」
「そう どこにいたかを思い出すんだ」

遠くを見るような目 そんなことを語って北京へ旅立った

 

☆4人目は台湾出身50歳のピアノ調律師 

駅ピアノ 彼の調律によって いつもいい状態に保たれている

作業を終えてピアノの前に

調律師33年のベテラン
曲は「愛は花、君はその種子」 映画「おもいでぼろぼろ」の挿入歌だ

感動した映画の曲 弾くと心が温かくなるんだ
私たちにこころがあるように ピアノにも音という魂があります

ピアノの魂を損なわないよう
私自身 ベストな心をもちつづけたいです

彼はそういった

 

☆5人目は、空港のセキュリティ職員 コンゴ民主共和国出身・黒人男性

ピアノを始めて3ヶ月 この曲は教会で歌う讃美歌

戦火を逃れ 難民となる
8年前 家族とオーストラリアへ

ブリスベンで出会った同じコンゴ出身の女性と結婚

当時コンゴは内戦で 人々は殺され 街は破壊されました
幸運にもオーストラリアが 難民として受け入れてくれました

おかげで 家族と共に暮らし 仕事に就くことができました

平和なくらし コンゴを想うのか 明るさはない

 

☆6人目は、広告会社勤務女性 娘とニュージーランド旅行へ

ピアノ曲は 「ユアーズ」エラ・ヘンダーソン
娘の大好きな曲 と言って二人で歌いながら弾きだした

長い髪を三つ編みにした 金髪の可愛いお嬢さんだ

彼女はシングルマザー 二人で支えあってきた

両親の紹介で出会った男性と まもなく再婚する
フィアンセはギターを弾き 娘はウクレレを弾くのよ

その後ろにフィアンセが現れた

3人で肩を寄せ合い カメラに向かった
「家族で一緒に演奏することは とても気持ちがいいよ」
とても うれしそうに話した

新しく始まる しあわせな家庭を予感させる

 

ジイはこの15分の駅ピアノをたまに見る

ピアノを聴きたいのではない

駅や空港にやってくる人が語る短い言葉に 人生の一部をかいま見る

人生のターミナルを演出する駅ピアノ

ほんの2分少々 彼らの語りは1分にも満たない
ピアノを弾いてる画像下に 字幕が補完する

国はそれぞれ違っても 喜び 悲しみ みな同じように感じる

多弁ではない ふたこと みことのことば しぐさ 表情に
多種多様な よろこび 悩みがにじみ出る

演出のない映像に添えられる わずかなことば 駅ピアノは饒舌である

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