没後30年 松本清張

日本,,雑記

Vol.3-9.20-980  没後30年 松本清張

2022.09.20

没後30年、松本清張のコラム記事があった。

代表作の一つ『点と線』は、松本清張の長編推理小説である。

料亭「小雪」の女中2人と、東京駅の13番線プラットフォームで見送られていた機械工具商会を経営する安田辰郎。この3人は、向かいの15番線プラットフォームに、同じく「小雪」で働くお時が男性と夜行特急列車「あさかぜ」に乗り込むところを見つける。
だが数日後、お時とその男・佐山は、香椎の海岸で情死体となって発見された。

・・・・・

捜査の結果、二人は、東京駅で13番線プラットフォームから15番線プラットフォームが見えるのは、1日の中で17時57分から18時01分のわずか4分間しかないことを突き止め、安田を容疑者として追及しようとする。

この小説のキーポイントになる出だしである。ファンの多くは実際に東京駅の13番ホームに立ちこの4分を確かめに、心躍らせたことであろう。

この小説の大ヒットで清張ブームが起こった。

ジイは物心ついたころすでに大作家であったが、どういうわけか共産党員というイメージがあって、作家プラス何かを感じちょっと距離をおいて見ていた。実際は共産党員ではなく取材する立場としての付合いだったようだが、宮本顕治を尊敬していたという噂もあり、かなり興味をもっていたこは事実のようだ。容貌からも、何でも食らいついて行くような凄みがある。

当時すでに社会派推理小説作家としての地位を確固たるものにしていたが、その “ 社会派 ” というのも、戦中・戦後の混沌としたつかみどころのない社会の裏面を知りつくしたような深みを感じさせた。

しかし、年を重ねるごとにこの小説家の凄さを徐々に知った。

この当時の人間、いわゆる戦前、戦中を生きた人間は多かれ少なかれ厳しい生活を生き抜いている。清張もご多分にもれず厳しい環境で育った。戦争中は衛生兵として軍務にも服している。

清張が人気を不動のものとした頃か、作家・大岡昇平と論争もしたようだが、大岡は

「私はこの作者の性格と経歴に潜む或る不幸なものに同情を禁じ得なかったが、その現われ方において、これは甚だ危険な作家であるという印象を強めたのである。・・・・・栄えるものに対する反抗という気分は、初期の作品から一貫している。しかし松本の小説では、反逆者は結局これらの組織悪に拳を振り上げるだけである。振り上げた拳は別にそれら組織の破壊に向うわけでもなければ、眼には眼の復讐を目論むわけでもない。せいぜい相手の顔に泥をなすりつけるというような自己満足に終るのを常とする。初期の「菊枕」「断碑」に現われた無力な憎悪は一貫しているのである」

この論評からも、どこか社会の暗部を抉り出す執念というか、怨念といおうか。本人が共産党も評価していたように社会の不条理への反抗心はあったと思われる。

清張の最終学歴は高等小学校卒である。大学卒でないことを理由に新聞社入社を断られた苦い経験を持つ。

そんな様々な経験を小説に生かすだけでなく、政治や社会問題にも臆することなく発言する作家でもあった。

推理小説の評論家の巽昌章氏は
清張は「鴎外作品の簡潔で生き生きとした描写や会話を称賛していた」と紹介し
「漢文を背骨とする文語体を好んだ清張は、簡明でリズミカルな文体を志向していた」と話し、「清張作品にはどろどろした粘着質のイメージがあるが、実際読むと静かな印象を受ける。過剰な筆を費やさない、練磨された文章が作品を魅力的にしているのです」と評価している。

ミステリー研究家の日下三蔵氏は、
「清張は普通の人々が日常生活の中で遭遇する事件を書き、読者の裾野を広げた」
「作品を支えているのは人間を見る目の確かさです。風俗は違っても人間の本質は昭和30年代と今とで大きく変わらない。それが繰り返し映像化させる理由のひとつでは」と語った。

驚くことなかれ、その映像化された作品である。
①顔 ②張込み ③眼の壁 ④共犯者 ⑤声 ⑥点と線 ⑦かげろう絵図 ⑧地方紙を買う女 ⑨証言 ⑩波の塔 ⑪黒い樹海 ⑫ゼロの焦点 ⑬遭難 ⑭黄色い風土 ⑮寒流 ⑯考える葉 ⑰無宿人別帳 ⑱風の視線 ⑲花実のない森 ⑳霧の旗に 21 けものみち 22 たづたづし 23 潜在光景 24 内海の輪 25 種族同盟 26 砂の器 27 告訴せず 28 球形の荒野 29 鬼畜 30 わるいやつら 31 疑惑 32 天城越え 33 迷走地図 34 彩り河

驚くばかりだ。映画、あるいはテレビで一度は遭遇しておられるのではないか。

まさしく巨人であった。

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