忘却は罪である
Vol.3-12.20-1071 忘却は罪である
2022.12.20
在日ウイグル人が日本語の学術書を書いたニュースである。
中国新疆ウイグル自治区の出身で日本ウイグル協会理事、サウト・モハメド氏が、ウイグル人のルーツや中国当局が少数民族を弾圧する背景を分析した『ウイグル人と民族自決―全体主義体制下の民族浄化』(集広舎)を10月に出版した。中国当局に弾圧される当事者による初の日本語学術書で、「漢族と異なるウイグル人の考えや歴史を知ってほしい」との願いが込められている。
新聞記事は
「ウイグル族ら100万人以上が『再教育施設』と称する収容所に送られたとされる自治区。イスラム信仰の制限やモスク破壊といった宗教弾圧、強制労働、強制不妊など、国連や欧米諸国で数々の人権侵害が指摘されてきた。
サウト氏は自治区の最大都市、ウルムチ出身。中国共産党の元党員で、大学卒業後は国営の中国鉄道部に勤務していたが、2009年にウルムチで起きた大規模暴動以降、当局のウイグル族に対する差別的扱いが深刻化した。
自由を求めて2016年に来日し徳島大学に留学。同大学院にも進み、国際政治の研究に没頭した。
今回の書籍は、院生時代に書いた修士論文を大幅に加筆修正したものだ。知人の大学教授に『日本にはウイグル関係の専門書が少ない』と聞き、追加で膨大な資料を収集。感情を抑えたファクト重視の文章を日本語で書き上げた。
・・・「中国は未だに根底に中華思想が流れており、弾圧につながっている」と強調する。
・・・書籍では「強制収容」の実態にも触れられている。自身も2017年から家族と連絡が途絶えたままだ。
・・・私は中国に戻れば間違いなく拘束される。とモハメド氏はいう。
ウイグル弾圧は2014年習近平が国家主席になってから始まった。もう8年になる。
弾圧の事実を疑う向きもあるが、今年の5月、中国のウイグル人に対する民族弾圧が「事実」であることを証明しうる内部資料が流出し、世界中に衝撃が広がったのは記憶に新しい。
しかしだ、世界にはいろんな事件があまりにも多い、この内部資料も一時は大きな話題になったが、ウクライナ戦争の激化、北朝鮮のミサイル、中国の台湾周辺の大規模な軍事演習に、日本領海へのミサイル着弾等々、めまぐるしく動く世界情勢の中で記憶が薄れて行くのが現実である。
あの忌まわしい台湾弾圧事件も、遠い昔の出来事のように今は誰も話題にすらしない。つい最近、12月10日のニュースで「香港の裁判所は10日、香港紙・蘋果日報(アップル・デイリー)創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏に詐欺罪で禁錮5年9月の実刑判決を言い渡した」とニュースが流れた。そうだ、あの事件は今も続いているのだと思い出した人も多いのではないか。
忘れてはならない事件は多い。このウイグル自治区の弾圧もその一つだ。
近年、ウイグル自治区の書籍は多い、櫻井よしこ氏推薦の
「重要証人: ウイグルの強制収容所を逃れて」(2021.8草思社、著者:サイラグル サウトバイ)
この本は、命がけで強制収容所から逃れた女性が証言する衝撃的な実態が書かれている。
著者は新疆ウイグル自治区で生まれ育ったカザフ人女性。
医師であり教師であり、二人の子供をもつ母親。
日に日に住民に対する監視態勢が激化するなか、ある日突然、拘束されて
再教育施設と呼ばれる強制収容所に連行される。
そこで行われていたのはウイグルに生きる少数民族への想像を絶する弾圧だった。
自分たちの言葉を禁じられ、伝統も文化も宗教も奪われて中国共産党への忠誠を誓わされる。
繰り返される拷問、洗脳、レイプ。そしてその先に待ち受ける死。
命がけで隣国カザフスタンに脱出した著者は、2018年、法廷に立って
ウイグルで現在進行中の地獄のような実態を証言した。
その衝撃的な事実は各国の主要メディアによって次々と報道され世界中に激震が走った――。
繰り返される脅迫にもひるむことなく勇気ある証言を行った著者に対して、
2020年には米国務省から国際勇気ある女性賞(IWOC)、
2021年にはニュルンベルク国際人権賞が授与されている。
これらの本をすべて購入して読むのは大変な出費である。特に、今回紹介された、サウト・モハメド氏のような『学術書』となると高額になる。政府は日本人として記憶に残すべき事件等を、「世界の出来事」『記憶の図書』コーナーを設置するなど市民が手軽に読めるようにしていただきたい。図書はその年の大きな事件を主に選定すればいい。
ニュースは一瞬で『風と共にさりゆく』が、図書は多くの人の記憶に残る。
“ 記憶の図書 ” 実現されんことを切に願いたい。
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