大相撲十一月場所
Vol.1-11.23-314 大相撲十一月場所
2020.11.23
大相撲十一月場所 大関・貴景勝が、13勝2敗で2度目の優勝を果たした。
今場所は大変な場所だった。
また2横綱が休場、横綱不在の場所かと、がっかりしたが、鬼のいぬ間に同年代の3羽ガラス、3大関が激突する充実した優勝争いが見られると期待した。
ところがどっこい、朝乃山が右肩のけがで11月場所3日目から休場。さらに正代が靱帯損傷で5日目から休場という前代未聞、2横綱に2大関が休場となった。
万が一にも、貴景勝が休場にでも、、、と相撲協会は大いに心配したのではないか。
幸い最後まで取り切り、大関の責任を果たし且つ2度目の優勝まで成し遂げた。
協会だけではない、相撲ファンの多くが胸をなでおろしたのではないか。
貴景勝!!よく頑張ったと褒めなくてはならない。
正直、突き押し一辺倒の相撲で、且つ一人大関を担うのは大変かと周囲は思った。しかし冷静な相撲を見せ何とか千秋楽までケガなく1敗で持ちこたえたのは立派である。良くやったと言うべきだろう。
優勝インタビューが良かった。
一人大関の重圧を聞かれての答えだ。
「ケガをしたくてしているわけではないし、自分も新大関でケガしましたし、なかなか思っていることと実際に起きることが違って、思いどおりにいかないのもあるんで、その中で自分は万全で出場できましたので、自分ができることとしては一生懸命、お客さんの前でいい相撲を見せること、それだけ考えて15日間やりました。」
同僚への優しさと、「お客さんの前でいい相撲を見せること、それだけ考えて一生懸命やった」と懸命な姿にお客さんを楽しませる真理があることを理解した言葉だった。
眉間にしわを寄せ、小さな口を丸くとんがらせ、まるで「わんぱく坊主」を思い起こさせるような様相から、そんなデリケートな心情を持ち合わせていたことに少々驚きである。
来年初場所には、2場所連続優勝での綱取りを目指すことになる。
優勝インタビューでは「強ければ勝つし、弱ければ負ける」と、貴景勝らしく厳しい現実を見据えている。
「大関に上がってからあまりいいことがなかったという」
その言葉通り、優勝が決まった瞬間、今にも涙があふれんばかりに表情が崩れた。
いろんな思いがこみ上げてきたのだろう。
「一人では優勝できなかったし、自分が調子悪い時でも、どんな時でも懐で守ってくれた千賀ノ浦親方、おかみさんはじめ、部屋のみんな、普段から自分をサポートしてくれるみなさんのおかけで、こういう成績を残せたと思う」と感謝の気持ちを表した。
ジイは本割で負けた後、支度部屋に帰る途中ビデオで、負けた自分の相撲をじっくり見ていた貴景勝の冷静な姿を見て、優勝決定戦は勝つのではないかと予感した。
実際、その通りになってよかった。
「本割は自分なりに集中していましたけど、自分の力が及びませんでした。負けてできることは、もう無心になって自分が挑戦者として新弟子のころから目指していたもの、何も考えずに強くなりたかった自分を意識しながら、何も考えずただぶつかっていった」
とすでに我が身を初心に置く冷静さを取り戻していた。
新年に向けての決意を聞かれ、
「小学校から相撲をやってきて、毎日強くなりたいと思ってやってきているんで。あと2カ月間、一生懸命頑張って、強ければ勝つし、弱ければ負ける。一生懸命自分と向き合ってやっていきたい」とインタビューを終えた。
まさしく、武道にしてこの言葉である。
相撲道、武器を持たず “ 裸 ”で闘う格闘技である。土俵の外に出すか、土をつけるか、極めてシンプルな闘いがほかにあろうか。「強ければ勝つし、弱ければ負ける」この冷徹でわかりやすい原理が生きる世界だ。
来場所は横綱への挑戦となる。
突き押し相撲で果たして横綱としての地位を維持できるのか。そんな疑問が当然ある。
しかし、誰も為しえなかった「押し相撲横綱」。そのヒントは今回の横綱決定戦にあるとジイはみる。
本割で負けた教訓を生かし、立会いから突き押しで行く姿は変わらなかったが、本の少し、腰を低くし、頭を若干下げ、腕を小さくたたみ、下から押し上げるようにつきあ上げるのである。一瞬、照ノ富士の身体が持ち上げられたような錯覚に陥るほど浮いたのである。、、、これである。
先代の横綱「朝潮」のツッパリは、はまれば見事な強さを見せた。先代は組んでも強かったが、突っ張りは芸術品と言える強さと美しさがあった。
是非、突き押しの形を「美しい形」にまで仕上げれば決して横綱は夢ではない。
令和3年初場所はもう少し、眉間のしわと目つきが、心と同じ、優しい強さを伴ったしわになることを期待したい。