ロシアの誘惑
Vol.2-6.7-510 ロシアの誘惑
2021.6.7
昨年ロシアは憲法を改正し、“ 他国への領土の割譲を禁じた ” にもかかわらず、日本との平和条約締結交渉を妨げるものではない、と日本に誘い水を向けてきた。
他人の戯言として、馬耳東風でいい。
つい最近の、北海道の漁船に衝突し沈没させたり、漁船を違法に拿捕したり、自国の横暴に何か後ろめたさか、他に魂胆があるか、どちらかでないと誘い水を向ける理由がない。
平和条約に限って言えば、両国の前提条件が全く違う。
<ロシア>北方領土問題を棚上げして善隣友好条約型の平和条約を前提とする。
<日本>領土問題の解決後に平和条約を結ぶ。
前提が全く違うのに話が進むはずがない。
ロシアは憲法で領土割譲を禁じた。要するに「自国領土を外国に渡しません」とわざわざ憲法に明記した。その意味は、お隣だから平和条約を締結して仲良くしよう。しかし領土は返さないよ。と言っているのだ
プーチン氏は、日本は領土交渉が、2島だ、4島だのと2転3転と腰の定まらない交渉を批判した。すでに足元を見られている。4島返還が端からブレているのでは話にならないということだ。
ロシアでは全国民が「第二次世界大戦の結果北方4島はロシア領になった」と信じている。それを強固にするため憲法も改正した。これを覆すことなどほぼ不可能だ。
今年2月、ウクライナ出身の国際政治学者・グレンコ・アンドリー氏の産経新聞にコラムには大いに納得、長い間ソ連の支配で苦難の歴史を持つ国の人間だからこそ説得力があった。
そのグレンコ・アンドリー氏の目から見た日本とロシア感である。
◆「ロシアには日本文化や日本武道が好きな人が多く、彼らは親日に違いない」というのは幻想である。よく「プーチン自身が日本武道をやっているので、日本の伝統や文化をよく理解している」と言われているが、全くの錯覚。
◆日本の外務省のように「チャイナスクール」「ロシアスクール」「アメリカスクール」は有名であり、日本の外交官であるにもかかわらず、日本の国益ではなく、外務省の中で専門とする国の国益を優先するというのは日本独特の “ 悪しき習慣 ” である。
外国では、専門の対象とする国をよく知り、その特徴や弱点を把握することで、当該国に対する自国の外交を有利に進めることに貢献するのが目的である。これが普通の姿勢。日本は逆。
◆日本のアニメを好きなことによって日本そのものを好きになり、親日になると考えるのは幻想である。
実は、私も日本に興味を持つきっかけの1つは日本のアニメであった。その頃、ロシアのアニメが好きな人たちのコミュニティと交流があったので、彼らが考えていることを直に聞くことができた。
彼らのなかには、日本のアニメに熱心な人もかなりいた。アニメグッズの一大コレクションを持ったり、コスプレショーなどのイベントを開いたり、日本への旅行を計画したりする人がいた。一見、まさに「親日」に当てはまる人たちである。
しかし、趣味ではなく現実世界の話になれば、まるで別人のようになる。
北方領土のことを聞いたら、たいてい
・「一島も返すべきではない」
・「あの土地はわれわれの先祖が血を流して獲得したものだから、返還は先祖への侮辱である」
・「アニメは大好きだし、日本人とは仲良くしたいけど、なぜ彼らが私たちの領土を狙っているのか理解できない」
・「そんなに領土が欲しいなら、米軍基地を撤退させて空いた土地に住んだらいいじゃないか」
・「アメリカに支配されているくせに日本人はロシアに文句言うな!」
・「趣味と国家は別だ」
・「北方4島(クリル諸島)が欲しいなら、方法は簡単だ。日本列島がロシア領になればいい。それだったら日本人は皆ロシア国民になるので、いくらでもクリル諸島に住める」、、、などである。
◆日本のアニメが好きは、中国は数で、韓国は比率でロシアに勝っている。また日本文化や日本武道に興味のある人の数も、ロシア人より中国人や韓国人のほうが多い。
しかし、それはまったく親日とは関係ないものである。中国と韓国は世界最大級の反日国家である。この自明な事実を、「アニメが好きなロシア人は親日」というデタラメを流している日本人がいるのだ。
◆たとえ日本のことが好きなロシア人であっても、「昔の日本は悪かった」「北方領土は一島も返すべきではない」と考えている。それだけではない。「今の日本はアメリカに支配されている」と考えている。彼らの頭の中では、アメリカが日本の民族主義者と結託し、存在しない北方領土問題を掻き立て、日露友好を妨害していることになっている。
◆基本的に、ロシア人の頭の中で友好とは「ロシアへの服従」を意味している。ロシア人は他国のロシアへの服従は当たり前の自然状態だと考えているので、それに反発が起きることを想定していない。したがって、反発が起きたときはそれを「敵対行為」と認識する。
ロシア人はそういう国民である。
というのが、アンドリー氏が実際ロシア人との交流の中で実感したリアルな証言である。たしかに、日本のように海に囲まれほとんど外敵の心配なく穏かに生きてきた日本人には理解できない感情である。
国境が土地で繋がる世界。日本人が理解するのはかなり難しいかもしれない。
しかしアンドリー氏のような、日本を理解する人物のリアルな体験からのアドバイスには真摯に耳を傾け、謙虚に反省し、彼のような研究者を入れた議論を闘わせることが必要だろう。
この度のプーチン氏のいかにも期待を抱かせる言葉に、ついほだされ「淡い期待」を抱くようではその時点で勝負はついている。
アンドリー氏が新聞のコラムで述べたことは、
『4島返還は絶対動かさず、向こうが頼み込んできた時に重い腰を上げる程度で十分。いずれ金に困ったロシアがすり寄ってくる。それまで日本自身の体力をつけることに邁進すればいい。
日本の国力が遥かにロシアを凌いだ時、本当の交渉ができる。その時まで知らぬ顔して放っておくことがロシアと向き会う最善の方法である。』、、、というものであた。
心配なのは、親中がいるように親ロシアがいる。騒ぎ立てる一部議員が先走ることが心配である。
決して浮き足立たない。しっかりと肝に命じたい。
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