全盲スイマー・木村敬一

オリンピック スポーツ 日本 雑記

Vol.2-8.24-588   全盲スイマー・木村敬一
2021.8.24

いよいよ今日からパラリンピックが始まる。

正直言ってそれほど興味があるわけではなかった。
しかし、22日の “ 産経抄 ” を読んで木村敬一選手に心を奪われた。

産経抄が、木村敬一選手が書いた『闇を泳ぐ』から拝借して書かれていたが、その拝借分をまた借りしたい。

『少年は、人波の中を恐る恐る歩いていた。向こうから来る誰かの肩や肘が、すれ違いざまにぶつかっては消えてゆく。香水の甘い香り、店先から漂う食べ物の香ばしい匂いが、鼻先をくすぐっては流れ去ってゆく』

『全方位から聞こえてくる話し声、電車や車の音―――。東京のにおい。東京の音。12歳の春、僕はたった一人で上京した。』

わずか2歳で視力をなくした全盲のパラ競泳の木村敬一選手が書いた自伝「闇を泳ぐ」の一節である。

2歳の記憶などきっとない。景色も、色も、母親の顔も、お父さんの顔も、桜の花も、真紅のバラも、青々と広がる海も、あの綺麗な富士山の雪景色も彼の世界には全くないのだ。

「今、朝日が昇るところだよ、富士山に当たって、雪がキラキラと光り輝いてね・・・・・」と説明しても、朝日がどんなものか、山がどんな形なのかさえ知らないのだ。

ほぼ生まれながらにして闇の世界に生きる人間に、朝日だ、雪だと言ったところで何の役にもたたない。そのことを理解するのにジイは少々時間を要した。

全てを目でみて確認できるジイとしては信じられない世界なのだ。

音と臭いと肌の感覚しかない。想像もできない。ほぼ人間の顔がどんなもので、どんな色?、そうだ色さえないのだと思う。赤と言っても赤がどんな色かもない。色の記憶さえない。暗闇といっても、もの心ついた頃から暗闇が自分の世界なのだ。

彼の頭脳の中には形というものもないのだろう。

産経抄には
「光も色も知らない。『人の情報源は視覚が8割と言われています。それがない僕にとっては、音とにおいのしめるボリュームが大きくなりますね』とあった。

暗闇が日常の木村さん。我々のように光も、色も、形も目で確認できる世界とは違う。暗闇が普通でそれ以外がない。

だからこそ言える言葉だが「暗闇の中は、決して絶望にあふれてなんかいない」と木村さんはいう。

2歳のとき、先天性疾患で視力を失い、小さい頃はぶつかったり、転んだり、ケガが絶えなかった。小学4年になり、「ここだったっら安全。どんなに動いても大丈夫」と連れていかれたのが、スイミングスクールだった。

それ以来、水泳が生きて行くための武器になった。

17歳で北京パラリンピックに初出場。負けた悔しさが芽生えた。
2016年リオデジャネイロ大会で銀3、銅3の6個のメダルを獲得した。それでも満たされなかった。

「金メダリストにならなければ意味がなかった」

金メダルの色も、その輝きも、木村選手は知らない。しかし、金を取ることは世界一自分が強いという証明になる。「世界に自分より強い人がいない事実がほしいのだ」。

今大会は金メダルが狙える3種目に絞ってエントリーしている。
本命は9月3日の100mバタフライだ。

最高のコンディションで迎えてもらいたい。
そして、世界最強を実感してほしい。

健常者にすれば、暗闇の世界は絶望でしかない。
しかし木村さんは
「暗闇の中は、決して絶望にあふれてなんかいない。腕を動かして、足を動かして、・・・どこまでも前に進むことができる」
それが木村さんが生きている世界だ。

競技最終日の9月3日の100mバタフライは決して見逃すまい。