時代遅れの領土欲
Vol.3-6.1-869 時代遅れの領土欲
2022.06.01
評論家・西尾幹二氏が面白い分析の論説があった。
つい先日、産経新聞に掲載された正論コラム「領土欲の露骨なロシアの時代遅れ」である。
西尾氏曰く「今回のロシアによるウクライナ侵略は、『19世紀型植民地帝国主義』である領土欲であるという。この領土欲は中国もも同様のことが言え、この両国は体制の転換期(1990年前後)に何も学習していない」というのだ。
「対して、第一次大戦後のアメリカの支配方式は、「脱領土」を特徴とする。アメリカも帝国主義的支配を決して隠さなかったが、遠隔操作を手段とし、主として『金融』と『制空権』を以てした。」
「第二次大戦まで国家の勢威の指標は領土の広さであったから、英仏蘭は戦後すぐ再び植民地支配に戻ったが、アメリカはGDPを指標とし、世界はそれに従って今日に及ぶ」
さらに
「世界の覇権には軍事力と経済力以外に独自の文明の力を必要とする。科学技術や人文社会系の学問で秀で、映画など娯楽やスポーツ、農業生産力でも世界をリードすることが求められる。アメリカはそれをやってのけた。戦後世界を支配したのは当然である。」というわけである。
確かに
「今、覇権の交替を求めている中国には世界を納得させる新しい文明の型を打ち出す力はない。核大国・為替の支配・宇宙進出などアメリカの模倣である。ロシアはそれにさえ及ばない。かくて共産主義の過去に呪われた両国は今では『領土』にこだわる、19世紀型植民地帝国主義を再び演出する以外に手はないようだ。」
と分析した。
かといってアメリカが今まで通り独自路線かと言えばそうではない。誇らしかった月面着陸は昔の話、世界はアメリカをはじめだんだんと “ はっきり言わない ” 日本の政治に似てきたという。
その日本、
「NHK朝の各党党首政治討論会。自民党から共産党まで全く同じ論調なのである。日本列島がウクライナのようになったらどうしようという国民が抱いたに違いない不安を予感させる言葉は誰の口からも出てこない。それどころか日本は輝かしい平和主義の国、平和主義を振りかざしていれば無敵、不安なし、平和主義こそが強さの根拠、と居並ぶ各党首が口を揃えそう語っているのだ」
「もし、日本が侵攻されたら、日本人はウクライナ人のように勇猛果敢に戦えるだろうか。そのような疑問が私の心を離れない。」とし、今のままでいけば日本が3度目の被爆をする可能性は決して小さくない。」と心配する。
ロシア・中国の領土欲 VS アメリカの軍事・経済+独自文明という比較論は新鮮であった。
確かにハリウッド映画は世界を席巻し、多くの研究者、芸術家もニューヨークを目指す。
ロシアにバレイ留学すれど、中国の確固たる文化に魅せられ留学するというのは聞かない。
ただ、違ってきたのはアメリカ一強で政治が動かなくなったことだ。アメリカが世界の警察を自ら放棄宣言したこともあるが、中国が経済・軍事両面で急速に力をつけ世界覇権を露骨に現し始め、相対的にアメリカの影響力が低下した。
従って、自由・民主・法の支配という価値観を同じくする国家同士が同盟を組み、ブロックで対応する方法にアメリカ主導で方向転換が図られている。
①<クアッド>自由や民主主義、法の支配といった基本的価値を共有する日本、アメリカ、オーストラリア、インドで安全保障や経済を協議する枠組み
②<オーカス>は、オーストラリア、イギリス、アメリカ合衆国、 三国間の軍事同盟。
③<ファイブアイズ>、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国、および米国で構成されるインテリジェンスアライアンス。
④<G7>はフランス、アメリカ合衆国、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ及び欧州連合で構成される政府間の政治フォーラム
⑤<NATO>ヨーロッパおよび北米の30カ国による軍事同盟
⑥<IPEF>中国の影響力拡大を念頭に、自由で開かれたインド太平洋戦略の実現に向けて、アジアにおける経済面での協力とルールの策定が主な目的である。参加国は13、米国、日本、インド、ニュージーランド、韓国、シンガポール、タイ、ベトナム、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、オーストラリア、台湾等、中国、ロシアを念頭に軍事、経済両面でブロックで対抗しようという態勢に変わってきた。
その意味では、軍事力を持たず何かと言えば平和を連呼する日本、今後は “ 平和主導 ” で与党・野党問わず一致団結して世界平和に邁進できる。
今までは米国の保護国のような目で見られていたが、国連常任理事国入りも実現に近づいた。今後はアメリカと対等の同盟国として役割を担うとすればその覚悟が問われる。野党を含め、いつまでも “ 井の中の蛙 ” であってはならない。世界を平和に導くという強い意志と、それを意識した国会議論。日本丸の船出だ。
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