ドイツの悲鳴が聞こえる
Vol.3-9.17-977 ドイツの悲鳴が聞こえる
2022.09.17
2011年3月、東京電力福島第一原発事故を受けて、ドイツ・メルケル首相は脱原発の政策を掲げ、2022年末を期限とする国内全原発の停止を決めた。
その時、メルケル首相の決断の速さに驚いたが、この脱原発は、素人のジジイでさえ “ 大丈夫なの? ” と疑問を持ったことを思い出す。
当時、ドイツ国内にあった17基の原発は段階的に廃止され、現ショルツ首相もこの路線を継承、昨年末6基残っていた3期の原発の稼働を停止した。
ところが今年、悪夢が突然襲いかかった。誰も予想だにしなかったロシアのウクライナ侵攻である。西側諸国はロシアの暴挙に、第一弾の経済制裁に踏み切った。
さらなる悪夢はロシアの逆襲であった。
ロシアはエネルギー大国である。特にドイツは原発を廃止し、ロシアのパイプラインに国内需要の55%を依存している。ガス供給削減はドイツを直撃、ドイツのエネルギー事情は一変した。
今となれば、クリミア併合から約1年しか経っていない時期に、ノード・ストリーム2の建設を認可し、ロシア依存度をさらに高める道を選んだメルケル政権、結果として見誤った。
この過ちに気が付き、“ 脱原発 ” の見直しに踏み切ったが、そう簡単に元に戻せるものではない。ドイツではガス価格の高騰と品不足懸念から、すでに工場の一部を操業停止にするなど影響が出始めている。これから冬に向かうエネルギー事情はさらに深刻だ。
そんな時、ウクライナから占領地奪還のため、ドイツに「戦車を供与してほしい」との要求があった。戦車供与の求めは、一般的に、自走砲より装甲が厚く、前線での機動力に優れているからだ。
ショルツ首相にしてみれば、ロシア・プーチン大統領とウクライナからの撤退交渉を進めている最中である。協力はしたいが、プーチンを刺激したくない。この板挟みで苦慮している。
すでに、自走対空砲ゲパルトや自走榴弾砲などをすでに供与している。“ 今はちょっと待ってくれ ” と言いたい気持ちもわからないではない。
ウクライナ・ポドリャク大統領府長官顧問は、「政治決断の欠如」で戦車が届かないと嘆き、「ドイツよあなたの返事を待っている」とせっつく。
プーチンとゼレンスキーの板挟みになったショルツ首相の苦悩。「私はどうすりゃいいんだ?」頭を抱えむ首相の姿が浮かぶ。
ドイツと日本は若干似たところがある。
ドイツの「戦争兵器管理法」は、「紛争に巻き込まれている国、もしくは紛争が勃発する危険のある国に対する兵器の輸出や移転」を原則的に禁止している。
ドイツ人にとっては、第二次世界大戦中の記憶も武器供与をためらわせる理由となっている。ナチス・ドイツ軍がウクライナを含むソ連領土に侵攻し深刻な被害を与えた過去があるからだ。ドイツの政治家たちはウクライナに武器を供与することをためらう理由として、「過去の経験から」という言葉をしばしば使うが、ナチスがソ連に対して与えた甚大な被害に対する罪の意識を示しているという。
しかし、現在のドイツは、世界第4位の武器輸出大国である。昨年1兆円以上の武器を中東、アフリカ、アジアなどに輸出している。2014年には、「紛争地域に武器を送らない」という原則の例外措置として、テロ組織・イスラム国と戦うクルド人の戦闘部隊に、対戦車ミサイルを供与した。
米国やバルト三国が「ドイツはなぜ今回も例外措置として、ウクライナに武器を送らないのか」と批判したのもわかる。
ウクライナの再三にわたる要求もそんなことが根底にある。
しかし戦後77年が経過した。反省して尚、「ナチス=悪の権化」のように言われる苦しみは日本も理解できる。対ロシアに対する複雑な事情と国内エネルギー事情もわかるが、ここは西側の一員としてウクライナ戦争を早期に終わらせるため、西側の団結に寄与することが優先するのであろう。
ドイツ与党も支援に前向きである。しかしショルツ氏の恐れは武器供与後、プーチンが下す、パイプラインのさらなる供給削減と撤退交渉のとん挫が脳裏にある。
冬を迎え、ドイツ・ショルツ首相はどんな決断を下すのであろうか。
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