負けて愉しき ❝ 藤井ワールド ❞

日本,雑記

Vol.5-2.15-1147     負けて愉しき ❝ 藤井ワールド ❞

2024-02-15

令和5年10月11日、将棋界は若干21歳の若者によって将棋タイトル全8冠が独占された。
その言動から、単なる ❝ 将棋好き ❞ という枠ではとらえられない不思議な匂いを感じる。まるで将棋の神様に導かれてこの世に生をうけたのではないかと思われるほど ❝ 将棋愛 ❞ に満ちている。

将棋の長い歴史の中において、過去に嗅いだことのない求道者のような匂いを放つ棋士である。

~ 昨年の10月、藤井聡太八冠の誕生から今日までの新聞報道からその軌跡を追った ~

2023.10.12(産経新聞1面)

藤井 全8冠制覇 王座獲得>

将棋の藤井聡太七冠(21)=棋聖・竜王・名人・王位・叡王・棋王・王将=が永瀬拓矢王座(31)に挑戦していた第71期王座五番勝負(日本経済新聞社主催)の第4局が11日、京都市東山区で指され、藤井七冠が138手で勝ってシリーズ3勝1敗で初の王座を獲得、前人未到の八大タイトル全冠制覇を達成した。全冠制覇は羽生善治九段(53)が全7冠時代の平成8年、25歳で達成して以来。藤井八冠は獲得タイトルを、負けなしの通算18期(歴代7位)とした。

藤井八冠は令和2年の第91期ヒューリック杯棋聖戦で17歳10カ月と20日の史上最年少でタイトルに挑戦、最年少記録を更新する17歳11カ月でタイトルを獲得し、初の現役高校生のタイトルホルダーとなった。その年には王位も獲得。翌年以降もタイトルを増やし続け、3年には叡王で3冠、竜王で4冠を果たした。昨年は王将を獲得して5冠、今年に入ってからは棋王獲得で6冠、最年少名人にも就き、7冠を達成した。

2023.10.13(産経社説)
<盤上の新たな物語見たい>藤井八冠の誕生

空前にして、恐らくは絶後の記録となるだろう。不朽の偉業をたたえたい。

将棋の藤井聡太竜王・名人が、王座戦五番勝負で永瀬拓矢王座からタイトルを奪取し、史上初の全8冠独占を果たした。

現日本将棋連盟会長の羽生善治九段が、平成8年2月に「七冠」を達成してから四半世紀あまりがたつ。指し手の可能性を網羅的に追及する人工知能(AI)は、序盤や中盤に飛躍的な進歩をもたらし、定跡も戦術も様変わりした。

2002(平成14)年生まれの藤井八冠は、いわゆる「Z世代」だ。幼少期からパソコンなどの利器を使いこなす「デジタルネーティブ」とも呼ばれる。AIを研究のパートナーとし、存分に才能を伸ばした現代の知性を代表する若者である。

羽生九段は藤井八冠の祝辞で、継続した努力や卓越したセンスなどの要素に加え、「時の運」もかみ合ったと指摘する。「世代」という自分で選べぬ環境を味方につけたことも立派な才能というべきだろう。

だが、AIによる研究は多くの棋士も採用しており、条件は平等だ。「藤井一強」の理由にはならない。幼いころから詰め将棋で鍛えた終盤の力、旺盛な探求心などが根本にあったからこそ、達成できた偉業であることを忘れてはなるまい。

「八冠」が実現したいま、将棋界は新たな価値観の提示を迫られている。今年、棋士編入試験に合格した小山怜央四段は、棋士の養成機関である奨励会を経ずにプロ入りした初めての棋士だ。麻雀のプロ資格を持つ鈴木大介九段は、棋士と雀士の「二刀流」に挑んでいる。

個性派棋士の活躍は、将棋界の魅力をさらに高めるはずだ。AIがどれだけ強くても、盤上の物語生むのは生身の棋士と棋士である。藤井八冠には自身の持つ29連勝の更新など、新たな記録に挑み続けてほしいが、誰が「一強」の時代を穿つかが最大の関心事であることは、言うまでもない。

進行中の竜王七番勝負で、藤井八冠に同学年の伊藤匠七段が挑んでいる。21歳の2人による、史上最も若いタイトル戦だ。今後の将棋界は藤井八冠の世代を軸に、やがて下の世代も加わり激しい争いを繰り広げよう。我が国の未来も、そこから見えてくるに違いない。

2023.10.13(産経)
<八冠制覇「実感わかない」>

「貴重な機会だったが、なかなか実感がわかないのが正直な気持ち」
将棋の第71期王座戦五番勝負の第4局に勝利し、初の八大タイトル全冠制覇を達成した藤井聡太八冠(21)が激闘から一夜明けた12日、京都市内のホテルで記者会見に臨み、率直な心境を語った。

前日の和服姿と違い、スーツ姿で会場に現れた藤井八冠。会見冒頭、対局会場のホテル側からお祝いの花束が贈られ、八冠達成にちなんで両手で「8」を示し、喜びを表現した。

前日夜は部屋に戻り、対局を軽く振り返ったという。普段通りに眠ることができ、家族からは「おめでとう」の連絡があったことを明かした。

王座奪取により、獲得したタイトルは通算18期となった。藤井八冠「初タイトル挑戦するまでは時間がかかったが、タイトル戦では実力以上の結果が出ていた。これからは、それ以上の結果が求められる」と、気を引き締めていた。

今後は、藤井八冠がどこまで全冠を保持し続けられるかが焦点となる。目標について問われると「特に目標は考えていない。これかの番勝負(タイトル戦)をより良いものにしていきたい」と一つ一つの防衛戦に全力を尽くす気持ちを吐露した。

2023.10.13(産経)
~ 藤井時代(上)全冠王者誕生 ~ 特集記事(1/3)

<王者の風格 相手をのむ>深い読み、予想外の手で圧倒
全王座、永瀬拓矢(31)との第71期王座戦五番勝負を3勝1敗で制し、将棋界で前人未到の全8冠同時保持の金字塔を打ち立てた八冠の藤井聡太(21)だが、決して簡単なシリーズではなかった。

藤井は先手番で圧倒的な勝率をほこる。それにもかかわらず、先手番だった第1局を落とす。後手番の第2局は勝利したものの永瀬の粘りはすさまじく、214手の大熱戦に。先手番第3局も永瀬に主導権を握られるとぎりぎりまで追い詰められ、薄氷の勝利だった。決着局となった後手番の第4局は敗戦寸前からの大逆転だった。

「永瀬先生の作戦がうまくはまっていた(藤井は)相当苦労したのでは」。今年、ヒューリック杯棋聖戦第五番勝負と王位戦七番勝負で藤井との「十二番勝負」に挑んだ佐々木大地(28)はそう分析しながら、それでもタイトル戦で負けがつかない藤井の強さを語り始めた。

☖ ☗

棋士は相手の指し手の意図を探る中で、「自分が追い詰められているでは」という思いに駆られがちだ。相手の指し手には必ず何か根拠があるはずー。それを佐々木は「相手棋士への信頼、信用のようなもの」と表す。

「トップ棋士は皆さん強いし、指し手の正確性も高い。藤井先生の場合、こちらが一度形勢を損ねると逆転がとても難しいと思ってしまう。諦めてはだめなんですが」

佐々木が制した6月23日の棋聖戦第2局。先手の佐々木のペースで進んだが難解な局面になり、中盤で形勢を損ねた。先を読むにつれ形勢の向きに気付くと、佐々木は藤井への「信用」と向き合うことになった。

伏線は敗れた前局(第1局)にある。対局後にお互いの指し手を振り返る感想戦で、藤井の「読み」の底知れぬ深さに触れていた。「このままリードを広げられてしまうのでは、というプレッシャーは大きかった」と佐々木。「よく勝てたな、と思いますね」と振り返った。

☖ ☗

「名実ともに若き王者の風格を感じます」
藤井の印象をそう語る六段の村田顕弘(37)は、今年6月20日に指された第71期王座戦の挑戦者決定トーナメント2回戦(準々決勝)で藤井と対局した。形勢は村田優位で進み、藤井を追い詰めた。

村田はデビュー直後の藤井とも対局している。藤井は形勢を損ねると、あからさまに悔しがったり肩を落としたりしたが、七冠となった藤井からは何も読み取ることができなくなっていた。

「そういうしぐさがあったらこちらも感づくので。それがなかった」と振り返る村田は選択を誤る。「はっきりと勝利が見えた局面から予想外の手を繰り出され、(藤井に勝つか負けるかの)2択の局面を迫られた。結果、負けの方を指してしまった。ほかの棋士だったら負けなかった自信はあるが・・・」

「王者の風格」にのみ込まれた村田。「将棋盤を挟んでみないと分からない藤井さんの人物像みたいなものが見えた気はします」と語った。(敬称略)

◇2023.10.14

~ 藤井時代(中)全冠王者誕生 ~ 特集記事(2/3)
<駆け上がった「将棋少年」>「面白さ」への探求心 原動力

将棋界初の全8冠同時保持を達成した八冠、藤井聡太はさまざまな記録を更新するたびに「記録は意識しない」といった言葉を口にしてきた。11日の8冠達成後の記者会見でも「うれしく思っている」としながらも、「実力としてまだまだ足りない。地位に見合った実力をつけられるように今後一層取り組みたい」と述べ、世間が注目する記録より、自己の納得感に重きを置く信念をにじませた。

自身の課題をクリアすることに無上の喜びを見いだすー。それこそが、藤井の将棋へのモチベーションなのだ。

☖ ☗

今年のヒューリック杯棋聖戦五番勝負とそれに続く王位戦七番勝負で藤井に挑んだ七段の佐々木大地(28)は対局後に互いの手を振り返る「感想戦」で、負けたときの藤井がとても楽しそうだったことが印象に残っている。

「予期しなかった手だと、すごく楽しそうに言うのです。感想戦は、勝ったとき相手に気を使うこともあるのですが、自分自身も楽しい時間でした」

王座戦の挑戦者決定戦で藤井をギリギリまで追い詰めた六段の村田顕弘(37)も、感想戦は佐々木同様に「すごく有意義な時間だった」と振り返る。

2人の初対局は平成30年10月31日の棋聖戦予選にさかのぼる。世間の関心を一身に集めていた藤井だったが、村田は「控室では年齢が近い奨励会員とネット将棋のことを楽しそうに話していて、将棋好きの少年という印象が強い」と語り、感想戦で向き合った藤井の印象も「初対局の時と変わらない、将棋少年のまんまだった」という。

☖ ☗

藤井は家でもテレビなどはほとんど見ない。将棋の研究のほかは、将棋中継を見ることが息抜きになっている。将棋がとことん好きだ。

そんな藤井は「将棋にわからないことが多い」とも言う。その心は藤井の指し手からも読み取れると、佐々木は指摘する。「奇をてらわないのです。対人研究をほとんどどころか、していないのでは。この人に勝つということではなく、将棋の真理を突き詰めようとしている」

藤井が盤上でみせる探求心の強さは、ほかの棋士も認める。令和2年の王位戦で藤井と戦った九段の木村一基(50)は「持ち時間の8時間をあまり使い切らないと思ったが、藤井さんはよく考え、ギリギリまで集中していると感じた」と振り返る。結果は木村の4連敗。ペースを握った第2局を落としたのが響いたが、「シリーズを通し、(藤井さんの)正確な読みが多かった」と話す。

「実力をつけること。その上で面白い将棋を指したい気持ちがある」

11日の記者会見で、これから続く挑戦者たちとの激闘を堪能したいという思いさえ感じさせた藤井。無欲で将棋が好きで、ひたすら強いー。8冠独占後の「藤井一強」時代はこれまで以上に、「少しでもいい手」を求めて全身全霊をかける「将棋少年」を中心に回っていくのは間違いない。

◇2023.10.15

~ 藤井時代(下)全冠王者誕生 ~ 特集記事(3/3)
<圧倒的一強 反応さまざま>「わくわくしない」「子供の目標」

形勢が不利でも最後は勝つー。将棋の8大タイトル独占を初めて成し遂げた八冠、藤井聡太の計18回のタイトル戦では何度も逆転勝ちがあった。その度に多くのファンを魅了してきたが、一方で圧倒的な ❝ 一強 ❞ 時代の到来に、今後の将棋人気を危惧する声も出始めている。

「以前から終盤の読みの深さと正確さは圧倒的だったが、最近の対局を見ていると、勝利への執念を感じる。8冠独占に驚きはない」。将棋を題材にしたミステリー小説「死神の棋譜」などの著書がある作家、奥泉光(67)にとって藤井の偉業は織り込み済みだった。ただ、人間よりはるかに強いAI(人口知能)ソフトなどにより進化し続ける藤井の率直な思いも吐露する。

「見る側としても、対局が始まる前からなんとなく『最後は藤井が勝つのだろう』と思ってしまう。つまり、あまりわくわくしない」

奥泉が将棋界に求めるのは、ライバル物語など棋士たちの人間ドラマだ。成功と失敗、挫折と再起・・・。「人間ドラマと結びつくことによって、対局中の妙手も魅力的に映る」と持論を説く。

☖ ☗

「藤井一強」時代への思いはさまざまだ。

「8冠達成という結果だけを見れば、藤井さんが一人だけ突き抜けた天才で、神がかったような一手を連発して余裕で勝利しているイメージがあるが、とんでもない」と話すのは小学生の頃から将棋に親しむ作家の湊かなえ(50)だ。兵庫県洲本市在住の湊は、これまで2度、当地で開催されたヒューリック杯棋聖戦五番勝負で藤井の対戦を観戦。特に藤井の初防衛がかかった令和3年開催の、九段の渡辺明(39)との「荒れ地で殴り合う」ような第2局は印象深いという。

湊は名勝負を繰り上げ広げてきた「藤井一強」の今後に期待を寄せる一人だ。「(藤井の前は)羽生善治さんの時代があった。スターの存在で、目標にして将棋を始める子供もたくさん出てくるし、棋士の方たちも研究や勉強を重ね、どんどん進化しすごい世界になっている。次のもう10年、20年、もっと先に続く素晴らしいことだと思う」

  ☖ ☗

将棋史の中で、現在地が有する意味とは何か。

「AIでの対局研究が進んだことで、これまでの常識のようなものが通じなくなり、新たな考え方や方法が力を持つ。将棋の歴史でも今は大きな変革期なのだろう。8冠制覇はその印象的な出来事のような気がする」小説「盤上の向日葵」の著者で、今期の棋聖戦第3局を観戦した作家、柚月裕子(55)はこう話す。

将棋人気の今後について、柚月が注目するのは交流サイト(SNS)との関係だ。人気を盛り上げるうえで藤井を脅かすライバルの存在は不可欠とみるが、ファン層のさらなる裾野を広げる努力も欠かせない。

「参加した棋聖戦第3局の前夜祭では、女性ファンの多さに驚いた。今はSNSや動画を通じて、プロ棋士の方々の姿に日常的に触れられる時代。技術、強さという要素だけではなく、棋士の個性、キャラクターにひかれて ❝ 推し ❞ になった人もいるはず」

21歳の天才がたどり着いた前人未踏の頂点。そこにはどんな将棋界の景色が広がっているのだろうか。

◇2023.10.18(産経)
<社説検証>
藤井八冠をめぐる主な社説

◇毎日新聞 ~「頂上への挑戦なお続く」~『心震える歴史的な偉業』

◇読売新聞 ~才能と努力で前人未到の快挙~
・(師匠の杉本昌隆八段があげた)『相手に威圧感を与える長考』『常識を超える感性』『正確無比の終盤力』
・『規格外の実力と礼儀正しい立振る舞いが人気を呼んでいる点では、今期大リーグの本塁打王に輝いた大谷翔平選手とも共通しているかもしれない』

◇日経新聞 ~常識を変え若い才能伸ばそう~
・『詰将棋を好み、早くからAIを取り入れて研究してきた』
・『藤井さんは ❝ AI ❞ 超えとファンがうなる妙手を繰り出す。ピンポイントに良い手だけを読む力がAIを上回るのだろう』

◇東京新聞 ~後に続く才能育てたい~
・『社会における将棋の位置付けを根底から変えてしまった』

・『将棋は知らないけれど藤井さんは好き』という新たなファン層が生まれた。

2024.2.9(産経)
藤井八冠 タイトル戦20連覇
~ 58年ぶり、大山十五世名人超え~

王将戦4連勝で防衛
将棋の藤井聡太八冠(21)は、7、8の両日、東京都立川市で指された第73期王将戦七番勝負の第4局で、挑戦者の菅井竜也八段(31)を破り4勝0敗で防衛、王将戦3連覇を達成した。出場したタイトル戦を全て制している藤井八冠は今回で20連覇とし、大山康晴十五世名人の19連覇を抜き新記録を樹立した。

藤井八冠は令和2年、タイトル戦初挑戦の第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負を制し、史上最年少で初タイトルの棋聖を獲得。昨年の竜王戦七番勝負で防衛を果たし、大山十五世名人が昭和38年~41年に記録したタイトル戦19連覇の歴代トップに並んでいた。

藤井八冠の話『(タイトル戦20連覇は)意識はしていなかったが、逆に意識しても目指せるものでもない。光栄なこと』

・・・大山康晴十五世名人が過去に記録したタイトル19連覇にはフルセットがいくつもあったが、藤井八冠は令和3年の叡王戦1局のみ。ここにも圧倒的強さがうかがえる。

敗れた菅井八段は「ミスが多すぎた。振り飛車の工夫をするとか、戦い方を変えるとか、大きな変化が必要だ」と悔しさを隠し切れない様子。

一方、藤井八冠は「(シリーズ前に)いろいろ展開を考えて練習することができた。今シリーズに生きたところがあった」と振り返った。

☖ タイトル戦の連続獲得ベスト5 ☗

  • 藤井聡太・・・・・・・・・・20期(令和2~6年)
  • 大山康晴・・・・・・・・・19期(昭和38~41年)
  • 大山康晴・・・・・・・・17期(昭和33~38年)
  • 中原 誠・・・・・・・・17期(昭和49~53年)
  • 羽生善治・・・・・・・15期(平成9~12年)

以上が、昨年10月に八冠達成後、今日までの新聞記事である。

いよいよ、今年は八冠達成後のタイトル後防戦が1月7日より始まっている。スタートの王将戦は4連勝で防衛に成功、幸先良い出だしである。

連載の中にもあったが、奥泉光氏のように王者が強すぎて「わくわくしない」という見方がある。しかし、ジイは絶対的王者の方に魅力を感じる。双葉山の69連勝、巨人軍9連覇、ボクシングの井上尚弥選手の26戦26勝23KOのように伝説になりうる絶対的スーパースターの存在こそが子供たちのワクワクドキドキの原点であり、夢に相応しい目標だと思う。

藤井八冠の魅力はまだ21歳という若さである。さらに、八冠にしておごり高ぶらない謙虚な姿勢。2年前19歳6カ月の史上最年少王将をかなえ、5冠となった会見で語ったのが、「富士登山に例えると何合目か?」との質問に「森林限界(5合目付近)の手前くらい。上の方には行けてません」だった。

昨年10月、史上初の全8冠独占を果たし、では現在は何合目か?の問いには「樹海をさまよっている感じです」と、自分を冷静に見つめる姿勢に変わりはない。

過去の言葉の端々から感じるのは、どんな高みに上りてなお先が見えない将棋の深淵さに驚き、仰ぎ見る姿勢である。そこから見えてくるのは、大好きから深い愛に変わり、さらに恐れを感じる謙虚な姿勢は知れば知るほど奥深い将棋への敬意である。❝ 将棋という世界 ❞ への視線をさらに一段上のレベルに引き上げたような気がする。

藤井八冠を見ていると、勝負の勝ち負けにこだわって泣き叫んだ幼少時代を経て、今は、将棋の神様に導かれるように将棋の持つ真の魅力や面白さを人々に知ってもらうことを喜びの一つとしている。難しいお経を誰にでもわかりやすい言葉に変えて伝える高僧のように、その心は「皆さんに面白い将棋を見せたい」の言葉にあらわれている。まさに求道者でありながら伝道師でもある。

連載の中での象徴的出来事の一つに、勝負よりも発見したことに心躍らせるエピソードがあった。

 ☗  ☖

昨年王位戦七番勝負で佐々木大地(28)七段が勝ったときの感想戦で、負けたときの藤井氏がとても楽しそうだったと印象を語っている。『予期してなかった手だったと、すごく楽しそうに言うのです。感想戦は、勝ったとき相手に気を使うこともあるのですが、自分自身も楽しい時間でした』。藤井八冠は ❝ 予期してなかった手 ❞ に出会えた幸福を感じたのだ。まるで修行僧が悟りの手がかりをつかんだ時のような喜びようである。

 ☗ ☖

頭のてっぺんからつま先に至るまで将棋の血が脈々と流れ、どんな小さな発見も逃すまいとする。まだ見ぬ夢のような棋譜に出会うためのわくわくする旅を満身の力を込めて楽しんでいるかのようだ。将棋の神様は ❝ 藤井八冠 ❞ ではなく ❝ 藤井聡太 ❞ をどんな境地に導こうというのであろうか。その先は今まで誰も見たこともない別世界、将棋の宇宙のような気がする。

王将戦の防衛を終え、次は2024年2月24日(土)の午前9時から石川県金沢市の北國新聞会館にて行われる第49期棋王戦五番勝負 第2局 藤井聡太棋王vs伊藤匠七段の対局が待っている。

藤井八冠は 「1月に地震があってまだまだ大変な状況が続くと思うが、そういった中で迎え入れていただき感謝しています。集中して面白い将棋が指せるように全力を尽くしたい」と語った。

棋士・藤井聡太に託された神からの使命は、魅せられしものへ捧げる無上の愛の美しさを ❝ 藤井聡太 ❞ を介し、具現化しているのではないか。

まだ始まったばかりの令和六年の ❝ 藤井ワールド ❞ 。
神はどんなミッションを託されたのかだろうか楽しみで仕方ない。

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Posted by 秀木石