おばば様3様の生き様

日本 雑記

Vol.1-11.13-305   おばば様3様の生き様
2020.11.13

いつの世も “ おなご ” は強しだ。

新聞エッセーに最近立て続けにおばあさんと言っては失礼か、3人の女性にまつわる話がそれぞれに味わい深いものだった。

~ 気ぃつけてけょ ~   <11/10>

「気ぃつけてけょ」
祖母はあまりしゃべる人ではなかったが、家の誰かが出かけるときは必ずこう言って見送った。

大人になりきれていなかった私にとって、気にもとめない言葉だったが、なぜだか体のどこかが、温かくなる、そんな気がしていた。
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それから数年たち、私は結婚した。朝、夫が出勤するとき、思わず出たのが、
「気をつけて行くんで」
そして子供が生まれ、小学1年生になり、初めて一人で登校する日、夫に最初にかけたときよりもっと思いを込めて、
「気をつけて行くんで」と言っていた。

・・・・・・・・・

特別のお出かけには、私はよりいっそう気持ちを込める。
「気ぃつけてけょ」祖母がかけてくれた言葉。
無口な祖母の精いっぱいの愛情だったと気づいたからだ。
                  (Oさん47歳)

~ 13,800円 ~   <11/11>

フランク永井の「13,800円」の歌が流行した年、私たちは結婚しました。

主人の月給は歌と一緒で「13,800円」でした。共同便所、共同炊事場、6畳一間で、それでも幸せでした。

私たちは10年後こつこつとためたお金で飲食店を始めました。
生活が豊かになると、酒好きの主人が1日お酒を1升飲み、タバコを40本吸うのです。

「俺が死んでも焼き場に金払うなよ。俺の体はマッチ1本で火がつくからな」と言って48歳でガンに侵されて亡くなりました。

残された店を店員さんと朝早くから夜遅くまで頑張りました。

そして65歳になったとき、自分の人生を振り返り、戦争と貧しさで行けなかった高校へ行こうと思いました。

まず50年間の空白を埋めるために、夜間中学に2年間、そして念願の定時制高校に4年間休まずに通いました。

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若い人たちとそれは楽しい学生生活を送り、「成績優秀賞」を頂き71才で卒業しました。

今、子供孫たちが優しく大切にしてくれて幸せ。しかし、私のいくところは永い間待ってくれている主人のところ。あの懐かしい「13,800円」の歌を2人で歌いたい。
                       (Yさん86才)

~ おばさまとの4年間 ~   <11/12>

今から30年以上も前のこと。山口から東京に出てきた私は、当時でも珍しかった賄い付の下宿を大学の学生課から紹介された。

両親と一緒にそのお家を初めて訪ねたときのことは、今でも鮮明に覚えている。

「よくお嬢さんを一人で東京に出される決心をなさいましたね」とおばさまは開口一番おっしゃった。

お年をめしていらっしゃったが、にじみ出る気品と温かさがステキだった。父がぶしつけな質問にもユーモアで返され、「私が責任をもってお預かりします」と面接は終わった。

2階の子供部屋に学生が3人。食事もお風呂もテレビを見るのも、すべておばさまと一緒。まさにひとつ屋根の下の4人家族。

おばさまはお手製のポークのプラム添え、舌平目のムニエルなど、それまで食べたことのないシャレた料理が毎日、食卓に所狭しと並んだ。

「食事のときは、黙って食べるのではなく、適当なお話をしながらね」と、上級編の作法もさりげなく教えてくださった。

おばさま、夢のような4年間をありがとう。最初の約束通り、いえ、それ以上によくしていただきました。
・・・・・シアワセな思い出はまるで熟成するように心にしみいるばかりです。
                      (Tさん55歳)

3人三様の母性が素晴らしい。

「気ぃつけてけょ」のOさん。ぶっきら棒な愛情がOさんの人柄をしのばせる。庭先で手を後ろに組み、孫の姿を心配そうに見つめる姿が目に浮かぶようだ。

「13,800円」のYさん。なんというバイタリティ。65才から夜間中学2年、定時高校制4年。それも皆勤である。6年間勉強する必然性は何もない。決めたことへのブレと迷いは一切ない。死んだらジイさんに会って一緒に「13,800円」を歌う。あの世のことまで自ら引いた路線に一直線である。何という素直な生き方。ストレスなし、まさしく「色即是空」の世界を生きる達人である。

「おばさまとの4年間」
このような人(おばさま)に極まれだがお会いすることがある。
凛としたたたずまいの中にも温かさを忍ばせる人柄は、会っただけで引き込まれそうになる。
「食事のときは、黙って食べるのではなく、適当なお話をしながらね」さりげなく作法を教える。なんという美しい仕草であろう。
おばさまとの4年間、あるいは大学4年よりも有意義であったのではないかと想像する。

この世は人である。常に己の姿を少しでも調えたいと思うが、いつの世も主役は女性だ。ジジイはなんの役にもたたない。