ドイツ左傾化の深層
Vol.2-4.12-454 ドイツ左傾化の深層
2021.4.12
ドイツ・メルケル氏はどうして中国に甘いのかと思っていた。
就任以来、12回も訪中した。中国側と大型契約を交わし、最大の貿易相手国になった。経済のためならなりふり構わない姿勢のように見えた。
しかし、その心底には中国も東欧や東独のように、経済発展で民主化が進展するという考えがあったという。
当初は、民主活動家の抑圧といった中国の人権問題に敏感な国内の一部世論を説得する材料にもした。ところが、経済発展を遂げれば民主化すると淡い期待は無惨にも消え去った。
独紙ウェルトも「貿易による変革は、中国では幻想だった」と断じた。
やっと「異質な国」であると気が付いて、是々非々で向き合う方針に転換しだしたのはそれほど前ではない。
その一方で、重視してこなかった日本との関係緊密化に目を向けだした。
しかし日本ではいとも簡単に慰安婦像を公共の場への設置を許してしまうドイツが理解できなかった。そこには日本とドイツの考え方の違いが歴然としてあることに気がついた。
そもそも、慰安婦は世界中にいた。日本と韓国で問題にしているのは「軍が強制的に女性を慰安婦にして従軍させた」という韓国の主張は、事実でないとする日本とのズレだ。
しかし、ドイツの認識は違う。その事実認識は希薄であるのはその通りだが、慰安婦像設置は日本を糾弾する意図よりも、根底には「過去、現在を問わず戦争中に性暴力の被害に遭う女性たち」のことを記憶し、悲運の女性を生んではならないという世界認識が最も大事だとする視点である。反日という心情は皆無だというのだ。
なるほど、と一応納得はするが、しかし韓国の執拗なドイツへのアピールと慰安婦像につけられる説明文は、事実に反した、日本を糾弾する内容である。その事実関係を吟味せず、慰安婦撲滅のためというのは、ドイツの不勉強もあるのではないか。国家に横たわる歴史事情への無理解と言われても仕方ないだろう。
そのドイツ・メルケル首相。最近になって、中国の異形に気が付いたようだが、時すでに遅し中国とは抜き差しならぬ関係にある。
現在も「キリスト教民主同盟」という保守政党を率いるが、自民党と公明党のように、「ドイツ社民党」という左派との連立政権だ。
保守政党としての独自性は薄れている。
寛大な難民の無制限受け入れや、脱原発の加速、年金の大幅引き上げ、同性婚の完全合法化等、まるで日本の公明党を始め、左派政党の意見をそのまま受け入れる政策に酷似している。
保守政党としての意義を無くしたキリスト教民主同盟、支持率が低下するのは当たり前と言えば当たり前だ。
保守凋落で次期政権も左派との連立となるだろう。メルケル政権の16年で国民も連立に慣れきったところでメルケル首相は9月で引退を表明した。
キリスト教民主同盟の凋落に代わって左派が勢力を伸ばしている。次期政権は保守から極左に代わる可能性さえささやかれている。
作家・川口マーン恵美氏は「メルケルの仮面」という論説のなかで興味深いことを書いている。
『旧東独出身のメルケル氏は、ドイツを理想の社会民主主義国にするという目標を最初から心に秘めていたような気がしてならない。旧東独出身のエリートには、経済では西に負けたが、真の理想の社会は資本主義ではなく、社会民主主義にあると思っている人は今も多い。子供の頃から、両親の確固たる社会主義精神を空気のように吸って育ったメルケル氏・・・彼女は、持ちうる能力のすべてを駆使して、これまでの一切の試みを超える理想の社会民主主義の完成を目指してきたのではないか』
そう言って、総選挙後大胆な政治の転換が起るのではないかと推測した。
幸い、最近、日本に向ける目が変わってきた。
主的価値観を共有し、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)や環太平洋連携協定(TPP)をまとめた日本だとし、評価する声がある。
インド太平洋指針の策定責任者である外務省のヤスパー・ウィーク氏は、「日独はルールに基づく国際秩序を守ることで一致している」と強調。別の独高官も「日本との協力の可能性を過小評価していた」と振り返る。EUの盟主ドイツの変化は、ちょっとした灯りだが。
<メルケル引退後の難問>
1、ドイツに深く入り込んだ中国経済
2、ドイツ左派政権ができれば自由主義×中国の形はできるか
3、日本の対ドイツ対応、、、など難問多しだ。
ところで、ドイツの左傾化、川口マーン氏の論説はメルケル氏の集大成を匂わせていた。