光の見えないミャンマー

世界,日本,雑記

Vol.3-8.17-946  光の見えないミャンマー

2022.08.17

ミャンマーでクーデターが起こったのが昨年2月、内乱の鎮静化は見通せない。

国軍がクーデターでアウンサン・スーチー氏ら民主派政権の幹部を拘束し全権を掌握し2年。武力弾圧で犠牲者は2千人を超えている。

ロシアのウクライナ侵攻で、注目度は下がったが相変わらず混乱が続く。

つい先日も、裁判所はクーデターを起こした国軍に拘束されている民主化指導者アウンサン・スーチー氏に対し、4件の汚職防止法違反で禁錮6年の有罪判決を下した。これまでの判決と合わせ、刑期は計17年となった。

スーチー氏を一生刑務所から出さないつもりであろう。裁判が繰り返され刑期は伸びるばかりだ。

アセアン諸国も非難する。西側諸国は経済制裁を科すなど、市民弾圧を続ける国軍への圧力を強めている。国軍は孤立回避しようとロシアや中国に接近。ロシア側と軍事・原子力協力をめぐり話し合うなど、関係強化を目指す。

悪は悪なりにつながる。ロシア、中国、ミャンマーは悪の枢軸となった。

28年間にわたりミャンマーの取材を続けているフォトジャーナリストの宇田有三氏によれば、ミャンマー情勢はとても複雑、単純ではないという。

宇田氏は、少数民族の1つ『カレン民族同盟(KNU)』の取材から始まった。

当時、カレン民族同盟の幹部の一人に、「40年以上にもなる戦闘が、まだ続くんですか」と尋ねた。幹部は「ビルマ軍への抵抗は今後50年でも100年でも行う。我々の闘いは、あくまでも抵抗なのだ」と語ったという。「あれから、さらに30年近い年数が経った」。

宇田さんは、軍に抵抗する人々の動きについて、一般に報道されない消息などの情報収集も続けている。

カレン民族同盟の支配地域の一つでは今年1月以降だけで、計300回以上も軍側と衝突し、軍側の死者は100名を超えているというニュースも伝わっている。

軍に抵抗する民主派の「国家統一政府」はオンラインで欧米や中国などと接触している。

宇田さんは「私たちは本当に、ミャンマーのことを正しく理解して来ただろうか」と自問する。

「私たちは1年前、誰もクーデターの発生を予想できませんでした」と自省を込め、私たちがミャンマーで起きる事態を予測できない理由の一つとして、ミャンマーにおける少数民族への理解不足があると語った。

「少数民族勢力には、停戦に積極的な民族や消極的な民族もいる。内部に路線対立を抱えている民族もいれば、タイや中国に支援された民族もいる。それを『少数民族』とひとくくりにするには無理があるでしょう」と語る。

そして、
① 私たちは、ミャンマーでの対立を、民主主義勢力対軍部という単純な構図で見ていないか
② 民主主義勢力にも、軍にも色々な人々がいて、離合集散が繰り返されている
③ ミャンマーに関わってきたメディアや研究者による情報の更新や軌道修正、事後検証も弱かったのではないか
④ 実際、停戦とは名ばかりで、ミャンマーは70年余の間、内戦状態が続き、軍部は常に存在意義を保ってきた。私たちは巨大化した軍の内情を詳しく知りません。軍が権力にしがみつく理由や構造、背景を十分に理解してこなかったのではないか
⑤ 少数民族が武装抵抗を続けている理由についても丁寧な説明をしてこなかった

ミャンマーは単純ではない。
軍がスーチー氏を排除しようとした理由も単純ではない。日本を含む欧米メディアは、常に流動的で複雑な問題を十分取り上げてこなかった。日本には、『少数民族は独立を目指しているから』という軍の主張をそのまま語る人もいる。ミャンマーの現状を、軍とスーチーさんの対立とだけ捉えていては、問題を解決する糸口は見えてこない。、、、と宇田さん話す。

一方、ロシアはミャンマーへの武器供与を続け、インドやタイは軍と民主化勢力の間で中立を装っている。

「国際社会は、民主化勢力に対する明確な支持を打ち出していません。日本もミャンマー問題をASEANに丸投げしている」と指摘した。

宇田さんによれば、軍は中国やロシアに近いとされるが、少数民族側は中国、米国、タイ、インドなどとも深いつながりがある。「ミャンマーの少数民族問題は複雑で、日本では、ある意味放置されて来た分野です。今回のクーデター後も、あまり言及されない悪循環にも陥っています」という。

欧米社会は人権や民主主義に敏感でミャンマー軍の行動に強い声を上げているが、日本は人権や民主主義に対する取り組みが弱い。

日本政府は過去、ミャンマーの軍勢力と特別な関係があるとして、西欧諸国とは異なった独自の外交を展開してきたが「日本政府は、ミャンマーの問題に数十年間取り組んでも結果を出せなかった。どうして結果が出なかったかを検証すべきだ」と指摘する。

日本政府は、新しい視点でミャンマーを見るべきだと説いた。

先が見えないミャンマー問題。そんな中、ちょっとほっとする記事があった。

「東京・新宿にある調理師専門学校が6人のミャンマー人留学生を無償で受け入れた」というニュースだ。

神田校長は、「アジアの同胞として日本に学びに来たいというミャンマーの方をぜひ受け入れなければと思った」といい。授業料や生活費などをすべて負担し、1年間同校で学ぶ留学生を募集、面接を経て6人が選ばれた。

「1年間同校で学ぶだけでなく、資格を取得し、日本で経験を積み、ミャンマーの若者を導く立場になってほしい」と期待を込めた。

100人以上の中から選ばれた6人、写真で見る限り不安の中にも落ち着きと優しい眼に理性が漂う。彼らが学ぶのは技術だけではない、ミャンマーの未来を背負っている。

 

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