敵基地攻撃能力
Vol.1-7.14-182 敵基地攻撃能力
2020.07.14
6月15日の夕刻、河野防衛大臣は首相の決断として事実上、イージスアショアの導入を断念することを発表した。
陸上における防衛の要が無くなるのである。
防衛に隙が生じてはいけない。危機管理上すぐにでも何らかの対応を考えなくてはならない。そこで出てきたのが、「敵基地攻撃能力」を有すると言うことだ。
いわずもがな、相手が撃ってくる前に発射基地を破壊してしまうということだ。
「敵基地攻撃能力」と聞いてナイーブな日本人は、相手が実際に攻撃もしていないのに、先に撃っていいの?なんて思う人もきっと多かろうと思う。
早速、国民の味方?朝日新聞と毎日新聞が反応した。
◆朝日新聞(8日)◆
「中国や北朝鮮、ロシアなどの反発を招き、かえって安保環境を悪化させてしまうおそれもある。」
◆毎日新聞【8日】◆
敵基地攻撃能力を持てば、周辺国の警戒感が高まり。安全保障環境を悪化させる可能性もある。専守防衛を逸脱することは許されない」
正しく、門田隆将氏がいうように、中国や北朝鮮が泣いて喜ぶ論理である。
朝日、毎日はいかにも日本のことを思っているような顔をして、間違いなく相手国側に軸足をおいた発言である。
イージス・システムというのは、米国の海上弾道ミサイル防衛システムであるが、その中において、イージス・アショアというのは、イージス・システムの中の、陸上に設置される「コンポーネント」(システムの一部を荷う、ひとまとまりの部分)ということである。
約4500億円の巨額予算を組んで2017年に導入が決定され、秋田市と山口県萩市の陸上自衛隊(陸自)演習場に配備される予定だった。
しかし、迎撃ミサイルを発射した際に切り離す「ブースター」と呼ばれる推進補助装置の落下について、「演習場内に確実に落下させる」と繰り返し説明し、必要な措置を講じることを約束してきたが、今になって難しいとアメリカが言ってきたのだ。
本来なら約束が違うと、損害賠償の話にでも発展するのだろうが、相手は日本の防衛の大半をゆだねているアメリカだ。お願いしている相手に対しそんなことも言えないのであろう。
そのブースターを的確に落下地点に落とすためには設計変更と時間及び多額の費用が加算されるというではないか。
何とも理解できないトラブルである。
内部事情がわからないが、逆の立場なら当然損害賠償問題であろう。
そこで持ち上がった「敵基地攻撃能力」である。
防衛の空白を生むわけにはいかない、という事情もある。
しかし、前述したように早速、北朝鮮、中国シンパ(朝日・毎日)から懸念が表明された。前途多難である。
この議論に問題を提起したのが、評論家・潮匡人氏である。
その問題点を防衛白書から導いてる。
その防衛白書だ。
「北朝鮮は、移動式発射台による実践的な発射能力を向上させ、また、潜水艦発射型を開発するなど、発射兆候を早期に把握することが困難になってきている。」
要するに、「敵基地攻撃能力」を備えても、もはや無理だと言っている。例えば敵地発射装置を攻撃のためにミサイルを発射しても、相手はすぐに察知して移動。到達した時はもぬけの殻だと言うのだ。
白書がそのことを認めているにもかかわらず、「敵基地攻撃能力」保有の議論をするとはどういうことだろう。
まさか政府が、白書の言わんとしていることを理解していないとは考えられない。
だとすれば、多額の費用をかけてきた「イージス・アショア」の再検討をしないのかと、潮氏は言うのである。
確かに最もな話である。
問題となっているブースターが民間の地に落下する危険。
大きさは人間大で約200kgある。人間に直撃すれば命はない。民家に落ちてもそれなりの被害が予想される。
しかし、核ミサイルが日本本土に落ちれば場所によっては何十万人の人間が一瞬にして奪われる可能性がある。従って、ブースターの危険を承知しろ、という暴論を言う気はないが、何らかの議論があってしかるべきではないか。
例えば、設置場所の変更や、撃ってくるとすれば北朝鮮であろうから、想定される軌道からブースターの落下の想定図を作成し落下地点に民家があれば、移動の可能性も含めて検討できないか。等々である。
河野防衛大臣と安倍総理の決断の速さには感服するが、今回ばかりは如何にも簡単に結論を出した感が否めない。
ただ、考えられるのは北朝鮮情勢が緊迫する中、熟慮する前にまず「敵地攻撃能力」という議論玉(ジイの造語)を上げておいて、国内議論、近隣諸国の動きを見極める時間を稼ぎ、本来目指す着地点を模索しているのではないかと推測する。
潮氏の言うようにゼロベースでの議論もあってしかるべきと思うが。
どうも腑に落ちない「敵地攻撃能力」防衛議論である。