根の深い人種問題
Vol.1-9.19-249 根の深い人種問題
2020.09.19
ミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性のジョージ・フロイドさんが、白人警察官の不当な制圧によって死亡するという事件が発端で、黒人差別問題に発展した。
先日、全米オープンテニスで優勝した大阪なおみ選手は警官に殺害された7人の黒人名をマスクに記し世界から注目された。
アメリカの人種差別問題は今に始まったことではないが、今なお根の深い問題だ。
この最近の騒動で思い出したのが、黒人男優「シドニー・ポワチエ」主演の『招かれざる客』だ。昭和42年(1967)製作だから、今から42年も前の映画になる。
ジイは端正で理知的なポワチエが好きで何度も見たが、この当時にして黒人差別問題を正面からトライした映画として画期的だった。
何故なら、本作が製作された1967年頃のアメリカはまだ、この年の6月までは、17の州で異人種間の結婚が禁じられていたのだ。1964年7月2日に、人種差別を禁じる「公民権法」が制定されてから3年ほど経っていたが、この映画の撮影中はまだ、白人と黒人が結婚することが罪になる州が、存在したのである。
<映画のあらすじだが>
『世界的にその名を知られる黒人医師ジョン(ポワチエ)はハワイで知り合った白人女性ジョーイ(C・ホートン)と人種の壁を越えて結婚を誓い合い、互いの両親の許しを得るためサンフランシスコのドレイトン家を訪れる。最初戸惑っていた母も、娘の喜ぶ様子を見て次第に祝福する気になるが、父マットの心境は複雑だ。やがて、ジョンの両親プレンティス夫妻もかけつけるが、彼らも息子の相手が白人とは知らされていず愕然とする』
アメリカの当時の情勢から見ても波乱含みのスタートである。
ジョーイの父マットは、新聞社を経営。人種差別反対のキャンペーンなどを行ってきた、筋金入りのリベラル派であったのが、ミソである。
進歩的な考え方の両親に育てられてきたからこそ、娘ジョーイは人種の壁がなかった。そして彼女は、この結婚を親が反対するなど、微塵も考えなかったのである。
ジョーイにジョンを紹介され、クリスティナは一瞬驚きの色を見せる。しかし娘のことを誰よりも愛し理解する彼女は、すぐにジョーイたちの味方となった。
一方父のマットは、優秀な医師で聡明なジョンに対して、好感を抱くものの、ひとり娘のパートナーとなると、話が違った。人種差別反対のキャンペーンを主導してきた手前、苦悩する。
まあ、見てのお楽しみだが、なかなか映画としても面白いし、当時のアメリカの黒人差別の厳しい現状を考えると、この映画は出来すぎだとの批判もあったらしい。
たしかに、翌68年、「非暴力」を唱えていた、公民権運動のリーダー、キング牧師が暗殺され、黒人解放運動は、過激化の一途を辿っている。
そして、シドニー・ポワチエである。「夜の大捜査線」や「いつも心に太陽を」などその品格を備えた風貌から、黒人医師ジョン・プレンティス役はピッタリであった。
そのシドニー・ポワチエ氏の記事が日経新聞「春秋」に登場してる。
平成9年(1997)4月16日に駐日バハマ大使として皇居を訪れ、天皇陛下に信任状を提出した。とあったのには驚いた。
本人はマイアミ生まれだが、バハマの国籍は少年時代を両親の出身地バハマで過ごしたことによるようだ。
この「春秋」コラムでも映画の「シドニー・ポワチエ」、大リーガーの「ジャッキー・ロビンソン」、ゴルフの「タイガー・ウッズ」など黒人の功績を讃えながら、果たして「黒人大統領の登場は、21世紀のいつごろだろう。」と結んでいる。
それから12年後、2009年1月に黒人初の大統領、バラク・オバマ大統領が誕生した。春秋の期待した黒人大統領の誕生である。これで、人種問題が解決の道をたどるかと思いきやそう簡単ではない。
『招かれざる客』から半世紀が過ぎてなお人種差別問題は消えない。
この地球上に己の意思とは関係なく生まれる命。
動物の世界に強い遺伝子を残そうとする本能的なものがあるが、人間世界にも優生学的思想が白人の中に偏見として根強く残っているということだろう。