フーテンの寅さん
Vol.2-1.1-353 フーテンの寅さん
2021.1.1
新年明けましておめでとうございます。
“ 男はつらいよ ” は正月映画の定番だった。
“ 私、生まれも育ちも東京柴又です
帝釈天で産湯をつかい、
姓は車、名は寅次郎
人呼んで
フーテンの寅と発します ”
ご存知「男はつらいよ」フーテンの寅さんである。
ジイが社会に出ると同じくして寅さんも劇場映画として世に出た。
昔、会社勤めをしていた時、ある歯医者さんの大きなお家に一人娘の少々気の強い女性がおられた。看護士さんや事務の方も何人かいてかなり大きな歯医者だった。ご年配の院長は年中スリッパに裸足。健康の秘訣だといい仕事一筋の医者だった。
お伺いすると必ず、応接間に通される。たまたま先生が来られるまでの数分、滅多に会わないお嬢さんと話す機会があった。
きっかけは不明だが、映画の話になった。お嬢さんは「私、毎年正月は “ 寅さん ” を見に行くの」と珍しく楽しそうに話された。気の強い娘さんからの思いもよらない寅さんの話に、意外な感じを持った記憶がある
容貌はマドンナ・浅丘ルリ子のようで、もう少し気を強くした感じの女性だった。
たった一度の会話だったが未だにその時のことを覚えている。
あれから40年近くが経ったある日、BS番組で毎週土曜日に寅さんが第1作から毎週放送されるという。早速、録画を思いつき毎回続けた。残念なのは最後の48作目の録画を逃したことだ。
しかし、この愛されるキャラクターは何と表現しすればいいのだろうか。テキ屋稼業を生業とし、旅をしながらまさしくフーテン人生、気が向いたら柴又に帰ってきて、騒動を起してはまた旅に出る。
見た目は決して近づきたいと思う人間ではない。チンピラには見えないが、かといってヤクザでもない。ちょっと変わったおっさんだ。その人間性を知るまでに少々時間を要す。
しかし、いったん話せばその性格は実に素直、魂胆や策略・謀略、およそ今はやりのオレオレ詐欺とは程遠い人間だ。それは純真な子供がそのまま大きくなったかのようである。
旅の行く先々で恋?に陥るがその源泉は “ 愛 ” である。
お兄ちゃんは
恋したんじゃねぇ
ただ、あの人が幸せに
なればいいな
そう願っただけよ
この言葉に端的に表れている。その愛も決して押しつけがましいものでないところが寅さんの本質である。寅さんの愛が嫌味にならないように、フーテンという一般人とは距離を置いた姿になったのではないかとさえ思える。
寅さんファンは数多い
昭和天皇、小渕恵三、桑田佳祐、原由子、山口良一、金日成、金正日 他多数。
しかし、金日成、金正日とは驚きである。
寅さんの何気ないことばだ
なんていうかな。
ほら、
あー生まれきて
よかったと思うことが
何べんかあるだろ。
そのために人間
生きてんじゃねえのか
★・・・★・・・★
ほら、いい女が
いるとするだろう。
男がその女を見て、
ああ、この女
大事にしたいなー
そう思うだろう、
それが愛じゃねえのか
人様の説教は聞き流してばかりの寅さん、帝釈天題経寺の住職である御前様にだけは頭が上がらない。その御前様の言葉だ。
「寅のような無欲な男と話していると、むしろほっといたします」
今、思えば、かの女性、寅さんを愛した理由が何となくわかるような気がする。