芽生えた日本への憂慮
Vol.2-7.14-547 芽生えた日本への憂慮
2021.7.14
地雷処理専門家・高山良二さんは、長い間、地雷処理を専門としカンボジアに関ってきた。
現地での仕事や日常生活の中から芽生えてきたというのが「日本への憂慮」であった。
正論8月号で語っておられるのは、カンボジアの地雷除去の仕事を通して浮き彫りになった悪しき日本人の姿である。
1960年代のベトナム戦争の影響を受けカンボジアの共産化をめぐる内戦が勃発。その過程で埋められた大量の地雷が今も4百万~6百万残っている。
その地雷だけで年間9百人前後のカンボジア人が命を落としているというのだ。高山さんは、その地雷を気の遠くなるような時間をかけて少しずつ取り除いている。
幅1.5m、奥行き40cmの範囲を除草し、もう一人がそこを金属探知機で探知する。金属反応がなければ、さらに40cm前進し、反応があれば、小さなスコップや刷毛で土を少しずつ取り除いていく。それをくりかえしていく。
地雷を作動させないように神経をすり減らす作業で、わずか40cmを終わらせるのに1時間以上費やすこともある。それを40度を超す炎天下、防護服を着て行うのである。
この仕事を高山さんは現地の人に教えようと考えた。厳しく危険な仕事だから現地人にということではない。
以前、日本人によって井戸が建設され、一時的には現地人に喜ばれたが、壊れた後のメンテナンスがされず、放置されている現実を見てこれじゃ何にもならない。そこで、現地人自らが携わればその問題も解決すると以前から思い描いていた。たまたま地雷除去だがその実践を試みたのである。
そこで、作業人を現地で募集したところ危険な仕事にもかかわらず、100人も集まったというのだ。
思いも成就し仕事も順調であった。半年もたち安心と満足感で一時帰国を考えて空港についた時だった。悲劇は起こった。
作業中の大規模な事故で仲間7人が死亡した。無我夢中で引き返した。現場から離れるべきではなかった。自分の甘さに腹立たしさと後悔ばかりがつのった。
自分のみならず事故がトラウマになって眠れなくなった隊員たちもいてそのケア、2か月間中止に追い込まれた。
ところが、この悲惨な事故にも、村人だけでなくカンボジア人から辛い言葉を浴びせられることはなかったという。ある遺族からは「私は息子を尊敬している。だから心配せんでいい」と逆に励まされた。
この、話を聞くだけで胸が熱くなる。
このカンボジア人とは裏腹に、悲しみと怒りは日本人の代表者の言葉である。殉職をした7人の慰霊塔を立てた時「余計なことをしてくれるな」と言われた時だ。高山さんは電話が壊れるほどの大声で喧嘩をしたという。
行動の判断基準が「自分の損得」。ずる賢い立ち振る舞いに腹が立ち、組織を離れる決断をする。その後、自分でNPO「国際地雷処理・復興支援の会」を立ち上げた。
大事故にあっても誰もやめるとは言い出さなかった。生活上の必要性もあったが、彼らは安全な国土が徐々に広げられていくことに意義を感じ、村人からも尊敬される存在でもあった。
カンボジア人は大らかである。仕事面ではマイナスになることもあるが、その大らかさに何度も、心が洗われ、なごまされ、励まされたという。
彼らは「これから自分たちの国をよくしていきたい」とにかく前を向いて歩みを進めたいと全員がそう思っている。
地域で災害があると見まわることがあるが、15歳くらいの子供でも高山さんをみつけると「ターありがとうございます。カンボジア人を代表してお礼を申し上げます」と気さくな会話の中で普通に出てくると言う。(ターは高山さんのこと)
国民一人一人に自分はカンボジアの未来を背負っているのだという思いが宿っていなければ、こうした言葉は容易に出ないと、高山さんの言葉に実感がこもる。
こんなカンボジア人をみると、かつての日本人を思い起こすという。自分は汗をかかず、漫然と生きることだけに腐心・専念し、土壇場になると逃げ出し、責任を回避してしまう。そして権利ばかりを主張する日本人が増えたと嘆く。
枉げられた歴史を受け入れ、軍事をタブー化し、空想に浸って平和を考えてしまう。現実に根差した平和を考えられなくなっていると指摘した。
高山さんが家族の反対を押し切ってカンボジアにきている意味が理解できた。経済活動だけに精を出すあしき日本人のふるまいが心配だと憂いる。
高山さんのおっしゃる通りだ。経済だけがすべてのような日本に成り下がった。かつて尊敬された日本人は皮肉にも日本人が忌避する終戦までである。
高山氏に指摘されるまでもなく、戦後の日本人は経済だけに狂ったように邁進した。大事なものをどんどん忘れ、植えつけられた史観で育った人間に日本人というアイデンティティはない。
発展途上国と言うなかれだ。カンボジア人には日本人が失った真っ青な青空のような澄み切った汗を流せる人間がいる。
経済、冨、飽食にどっぷりつかり、靖国さえ心から消え去った日本人。「日本人の誇りは?」と聞かれた時。「世界第3位の経済です」と答えるのだろうか。
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