ちょっと嬉しい話
Vol.3.01.29-746 ちょっと嬉しい話
2022.01.29
新聞に読者投稿の「朝晴れエッセー」(産経新聞)なるものがある。
たまに、同感したり、なるほどと感心したり、ちょっとホロッとするようなエッセーに出会う。
今回は「中華屋と36年」というエッセーだ。
「悲しいニュースがあります」
美容院から帰って来た妻が、靴を脱ぐのももどかしげに言う。
「○○が閉店!」「え?」。言葉を継げない私。美容院の少し先にある中華屋が昨年末で店を閉めたのだという。
結婚してこの地で暮らし始めて36年、なじみだった店である。月に1回か2回、昼にビールで餃子、それから定食、というのが休日の楽しみのひとつだった。
夏にエアコンが故障し、汗をかきながらすすったラーメン、たまに1人でいくと「今日はお一人?」と声をかけてくれたおばさん、妻が骨折して出歩けないときには、持ち帰りの弁当にしてもらったこともあったっけ。さまざまな光景が浮かぶ。
妻がスマートフォンで撮ってきた写真の、シャッターに貼られた店主の挨拶と客の寄せ書きを見ると、矢も楯もたまらずこれまでのお礼をメモ用紙に書き、店に向かった。
シャッターには従業員の方の言葉もあり、読むうちに不意に涙が浮かび、大切なものをなくしたような、さびしく切ない思いが胸にこみ上げる。持ってきた紙を寄せ書きの隅にそっと貼った。
家に戻って妻としばし思い出を語り合い、ため息とともに「もう1回、行きたかったね」。年明け早々残念な話だが、そういう店に通えたのは幸せだったし、同じ思いを共有できる連れ合いがいるというのは、なんと幸せなことなんだろうと、あらためて気づかされもした。
お店の皆さん、長い間ありがとうございました。(了)
・・・I・F氏(65)
結局全部紹介してしまった。
なんていうか、久しぶりにほのぼのとした気分になった。
結婚した当初から今まで、36年間の結婚生活と共にあった「中華屋」。
月に1、2回夫婦ともに食事に訪れ、つかず離れずの何気ない会話こそ客と店の最高の距離感である。
シャッターに貼られた寄せ書きをみて、涙ぐむご主人。心優しいご亭主なのであろう。文面からもほんの少しカカア殿下の典型的な幸せな夫婦である。
さぞかし、中華屋のご家族もシャッターに貼られた寄せ書きをみて、これほどまでに愛されていたことを知って「やってきて良かった」とやはり涙されたのではないだろうか。
どんな理由でお止めになったのか知る由もないが、もしも “ コロナ ” が原因であったとしたら、何という罪深いウイルスであろうか。
ジイも遠い昔通った “ 雲助 ” という居酒屋があった。
狭い店にカウンターとほんの少しのテーブルがある小さな店だが、年配の女将が一人で切り盛りしていた。
忙しい時は客が勝手に冷蔵庫からビール出したり、料理を客に出すことも手伝うようなアットホームな店だった。
ジイとは商売上の取引もあり親しくしていただいたが、凛とした厳しい優しさが人気の秘密だったような気がする。
そんな、店だがジイが転勤して何年か経った頃、女将が亡くなったという知らせをいただいた。
女将のいない店で常連が集まり供養の酒盛りをしている写真が地元紙に載った。たとえ地方紙とはいえ、新聞が取り上げるほど知る人ぞ知る店だったのだろう。ジイはびっくりしたことを思い出す。
そう言えば、屋号が一風変わった “ 雲助 ” 。女将に似つかぬ名前、由来を聞いたと思うが忘れてしまった。
ああ、 “ もう一度雲助で飲みたかった ” は後の祭りだが、そんなあったかい店にめぐり会った人生、Fさんと同じく、幸せを感じちょっと嬉しい。
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