大相撲・優勝11勝4敗の恐怖
Vol.4-9.26-1139 大相撲・優勝11勝4敗の恐怖
2023-09-26
大相撲・秋場所は貴景勝が優勝11勝4敗で逆転優勝を遂げた。
拍手喝采、“おめでとう”と素直に喜べない多くの問題が露呈した大相撲秋場所であった。
群雄割拠という聞こえのいい話ではない。“ どんぐりの背くらべ ” という表現がピッタリするほど、幕内すべての力量が拮抗している状態である。
今場所引退をした37歳德勝龍が幕尻優勝したのが3年前の令和2年1月場所だ。力士の力量の拮抗状態はこの時以前から始まっていたのだ。
大相撲を振り返ってみれば、大鵬全盛期の時代。
大鵬は34回の優勝の内6場所連続優勝、4場所連続優勝と1年の大半を一人で優勝をさらっている。また大鵬かと言われるほど横綱が最も安定した時代だった。“ 巨人・大鵬・たまご焼き ” という有名な言葉が生まれた昭和の良き時代だ。
大鵬以降の優勝者を振り返ってみる。
・昭和50年~60年代は圧倒的強さを誇った横綱・千代の富士
・平成初期には横綱・若乃花に横綱・貴乃花、いわゆる兄弟横綱の若貴ブームで盛り上がった
・平成後期は横綱・朝青龍に横綱・白鵬の時代。この時代から日本人力士の低迷期に入る。モンゴル出身の二人が大相撲を担うモンゴル時代に入った。モンゴル力士に比し日本人力士のハングリー精神欠如が問われもした。
朝青龍も6場所連続優勝、白鵬に至っては6場所連続に7場所連続優勝、さらに大鵬の32回優勝を遥かに超え45回の優勝を成し遂げ、圧倒的強さを誇った。
大関を始め、白鵬との差があまりにも大きかった。力量差というよりは相撲に取り組む姿勢、及び勝つためにどうすればいいかという執念の差が決定的に違った。
今もそのことに気付かない力士があまりにも多く現在の不振に繋がっている。
したがって、白鵬晩年の時代、さらに引退後は、毎場所優勝者が変わるという、ある意味大相撲危機の時代に入った。
群雄割拠と言えば聞こえはいいが強い横綱、大関が姿を消してしまった。どんぐりの背比べ、誰でも優勝できる時代になった。今場所の11勝4敗の優勝は、昭和の時代には1度もなかった。いみじくも貴景勝が4敗した時点で、「優勝はないな」と自己認識しているように11勝4敗が如何に低レベルの優勝であるかということだ。大相撲の危機といってもいい。相撲協会は恐怖を感じているのではないか。
現代を象徴するような時代に入ったと感じたのは、令和2年初場所、幕尻の德勝龍が優勝するという前代未聞の出来事が起こったことだ。それはそれなりに盛り上がったが、冷静にみれば本来の姿ではない。
やはり、強い横綱が東西に君臨し、どっちの横綱が今場所は優勝か?誰が金星を取るか?そんなレベルの高い大相撲でなければ国技として、重厚な品格を保てない。本当の意味で大相撲は締まらない。今場所の三賞は優勝を逃した熱海冨士の敢闘賞のみ、殊勲賞も技能賞も該当者なしとは情けない。
今後の大相撲はまったく楽観できない。相撲協会はすでに数年前から恐怖の時代を感じている。今場所の11勝4敗はその象徴的場所として記憶されるだろう。
今場所は熱海冨士一人が盛り上げてくれたが、来場所も若手に期待するしかない。熱海冨士に今場所休場の伯桜鵬、共に幕内に上がったばかりの21才に20才とは寂しい限り。
来場所復帰できるかどうかの横綱・照ノ富士も膝に致命的キズを抱えて万全ではない。大横綱・大鵬を叔父に持つサラブレッド王鵬も期待を裏切る常連、毎場所エレベーターのように上がったり下がったり、面構えに熱海冨士のような情熱も気迫もハングリーもない。大鵬から少々受け継いだ才能?で取っているようなものだ。
来場所、照ノ富士が復帰できるか大きな関心事だが、横綱としての責任感で相撲をとるにしてもケガには勝てない。途中休場でもすれば、あと一場所で引退の可能性すらある。
問題は照ノ富士引退後の横綱である。大関・貴景勝の優勝で幕を閉じ、とりあえずは協会としての面目は保てたものの、横綱のいない大相撲などありえない。変な話だが、相撲協会は照ノ富士には休場してでも横綱の位置に留まってもらい、横綱誕生後の引退を期待しているのではないか。
しかし、横綱に一番近い存在が貴景勝では心もとない。貴景勝の相撲全体をみても大関としてさえ万全かといえばそうではない、今場所は運よく逆転優勝をしたが、横綱を張れるほどの安定感はない。今場所も中日までに3敗をするという不安定さはいつも通り。
優勝インタビューを聞けば、彼なりに懸命に頑張ってる姿は評価できるものの、21歳の若武者・熱海冨士に優勝決定戦で変化ではたき込んでの勝利は、大喝采を贈れる勝ち方ではない。
貴景勝は優勝インタビューで熱海冨士の情熱につい高揚し、横綱取りを口にしたが先は厳しい。来場所の綱取りに関して、審判部の佐渡ヶ嶽部長は「11勝ですから何とも。レベルの高い優勝なら・・・」とそのトーンはあまりにも低い。
本来なら大関が2場所連続優勝すれば当然 “ 横綱 ” という話がでる。しかし、貴景勝に関しては審判部も疑問符をつけた。相撲内容に加え全勝優勝するような強さを見せつけない限りたとえ優勝しても横綱は無理だということだ。
貴景勝だけでない。今場所期待された、新大関・豊昇龍、大関二場所目の霧島、期待度の高かった若元春に大栄翔、さらには元大関・朝乃山すべてがファンの期待を裏切った。
彼らはファンの期待度の高さを認識しているのかさえ疑わしい。いみじくも貴景勝がインタビューで、熱海冨士の情熱を己も見習って頑張ると言ったように、土俵上に命を懸けるほどの真剣さが足らないのだ。
熱海冨士が優勝決定戦で敗れた時の花道を帰る時の、今にも泣きそうな顔で悔しさを表したが、その姿こそ、心底相撲に命を懸けた一戦だったのだ。
この若者の情熱をしっかり受けることができなかった大関陣に将来は望めない。しっかり受けて勝つ真剣勝負を期待したのが千秋楽の優勝決定戦の大相撲であった。期待外れの幕切れに、割れんばかりの拍手はなかった。
15日間、“ 満員御礼 ” の垂れ幕を掲げてくれたのは誰だと思っているのだ。上位陣は土下座してお客様にお詫びをすべきである。そのことに気がついている力士はどれほどいるであろう。
横綱候補として太鼓判を押せる力士がいない。協会の苦しい胸の内が痛いほどわかる。
貴景勝は優勝決定戦を「番付的に負けられなかった」という気持ちは分かる。しかし、まだ横綱をあきらめないとも言った。であればあの勝ち方はなかった。熱海富士の頑張りに一時的な高揚感で “ 横綱 ” を口にしたのか、本心から出た言葉か、来場所の相撲を見れば答えは自ずと出る。
今のところ、照ノ富士の後を継げる横綱候補は見当たらない。貴景勝同様、令和6年、横綱を張れる力士が出るか出ないか、令和5年最後の九州場所がその答えを出してくれるだろう。
最後に一言、NHKの大相撲放送に注文をつけたい。
いつの頃からか、カメラは力士の舞台裏を撮るようになった。闘い前の控えにいる力士の姿、あるいは勝負が済んだあと、花道から下がっていく力士の舞台裏をしつこくTV画面に映し出す。
大相撲も大きなくくりからいえば厳粛な神事に則った “ ショー ” である。土俵上でこそ力士の力強さ、美しさは、神事としての仕草が映えるのだ。真剣勝負の始まる前や勝負がついた後の役者の “ 素 ” に戻った姿を映してどうするのだ。開演前の歌舞伎役者の化粧する姿や、演技後のくつろぐ姿を撮るようなもので、白けることも少なからずあった。
力士は土俵にすべてを懸けるのだ。そのことを仕切りの中で解説者やアナウンサーがどう盛り上げるかだ。私見であるが、魅力がある解説者は元白鵬の宮城野親方ぐらいだろうか。穏やかな口調だが、力士の特徴、取り口の解説などはファンがなるほどなと思うことが数多くある。しかし、その他の解説者の話す内容は聞く方も心配するほど素人に近い。この解説内容にNHKが心配し、場を持たせるために、余計なことをしだしたのであろうか。
“ ショー ” を盛り上げるのはもちろん役者であるが、ショー盛り上げの一部を解説者も担っていることを忘れてもらっては困る。役者は舞台だけでいい、舞台裏など害あって益無し。それより、もっともっと解説者は勉強をしてほしい。ファンが今日の解説者にも熱視線、いや、熱視聴?をするような大相撲放送であってほしい。
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