国家と道徳

日本,雑記

Vol.1-6.23-161  国家と道徳
2020.06.23

「国家と道徳」(著者:廣池幹堂/文芸春秋)

題名だけ見ると如何にもお堅いイメージがあるが決して難しいことを言っているわけではない。
日頃起っているエピソードを交え、そのあり方に疑問を投げかけながら、あるべき姿を問いかけている。

「戦後のわが国は、民主主義のもとに繁栄を謳歌してきた。民主主義が唱えるものは自由であり、平等だ。その自由を履き違え、自分勝手に振る舞ったとしたら、そのような社会に平等は存在しない。」と言い切る。
「民主主義は、その社会に生きる一人ひとりのモラルがあって成り立つ。」と言っているのである。
逆に言えば、モラルがなければ民主主義は成り立たないと言うのだ。

ともすれば、個人主義が跋扈する世の中への警鐘ともいえる。

そして、世の中の出来事を大きく六つに分けてその考えを述べています。
第一章・・・万世一系の皇室が示す道徳
第二章・・・政治を道徳から考える。
第三章・・・道徳の基本は家族にあり
第四章・・・道徳で教育を立て直す
第五章・・・みんなが生きやすい道徳的な社会
第六章・・・道徳的経営は儲からないのか

実際に起きた出来事を検証しながらとても平易な文章で書かれているので分かりやすい。

いくつか紹介したい。

第一章から

「令和元年10月22日、新天皇の即位礼正殿の儀が、世界180国以上の元首、政府代表が参列し、総勢2000名以上によって盛大に執り行われました。・・・・・」

「多くの参列者の感想の中で、特に私はアフリカ代表の方々の思いに感銘を受けました。
彼らは、世界の最先端の国に、いまだに神話の時代から126代にもわたって続く皇室が存在していること、また、その方々の微動だにしない所作に驚き、尊敬の念を持ったというのです。・・・・・」

「彼らは異口同音に、古代からの文化・独立を守り抜いた日本に、自分たちの希望、目ざすべき道をみいだしたのです。」
「両陛下が迎えられる際、代表の一人は大きな体で跪いて最高の敬意を表していました。私はその姿を見て、大きな感動を受けました。」

とアフリカ代表が日本へ示した敬意と自国が歩もうとする道しるべを得たことを紹介しています。

皇位継承の安定化のため、一部に女系を認めようとする意見がある。しかし、世界は万世一系、126代も継承している凄さに感動し、尊敬と羨望の目を向けている事実を日本人は忘れてはならない。ということだと思います。

もう一つ皇室にまつわるエピソードです。

「戦後まもなくの昭和20年9月27日、昭和天皇が戦勝国側の代表であるダグラス・マッカーサー最高司令官を訪ね、会見されたときのことです。当日、公邸に到着された昭和天皇に対して、マッカーサーは礼を尽くした出迎えをしませんでした。敗戦の責任を負わされないように「命乞い」をしにくるのではないか、と考えていたのです。

ところが、会見で昭和天皇が口にしたのは、予想もしない言葉でした。藤田尚徳侍従長の記録が残っています。

『敗戦に至った戦争の、いろいろの責任が追及されているが、責任はすべて私にある。文武百官は、私の任命するところだから、彼らには責任はない。
私の一身は、どうなろうと構わない。私はあなたにお任せする。この上はどうか国民が困らぬよう、連合国の援助をお願いしたい。』

マッカーサーは心底驚いたようで、そのときの心情を、のちにこう綴っています。
「死をともなうほどの責任、それも私の知り尽くしている諸事実に照らして、明らかに天皇に帰すべきではない責任を引き受けようとする。この勇気に満ちた態度は、私の骨のズイまでゆり動かした。私はその瞬間、私の前にいる天皇が、個人の資格においても日本の最上の紳士であることを感じとったのである。」(マッカーサー回想記)。

会見終了後、公邸の玄関には、お帰りになる昭和天皇を、うやうやしく見送るマッカーサーの姿がありました。「我、神をみたり」と心の中で叫んだ、とマッカーサーはのちに回想しています。

まず2つの皇室のエピソードをのせてありますが、皇室の尊い価値を日本人よりも外国人の方が見出している。
日本人はまるで空気のような存在としているのかもしれないが、日本にあって世界にない皇室という存在、もっと心の中で大切にし、学ぶべきではないかと語っている。

第二章から一つ

現行憲法は不道徳であると言います。
現状とそぐわなくなったにもかかわらず、憲法を一字一句も変えようとしないことを嘆き、不道徳という言葉で痛烈に批判しています。

憲法第9条「・・・武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。・・・」

「普通に考えて武力を持つ自衛隊は憲法違反の存在です。・・・この条文で自衛隊を持つことの正当性を中学生のお子さんにきちんと説明できますか。」と問いかけ

「・・・しかし、現実には自衛隊は存在し、日々日本の国土を守り、ときには海外で世界の平和に貢献しています。こうした矛盾を放置し続けたことが無責任であり不道徳なのです。」
と日本の無作為を批判している。

また、憲法第89条に
「公金その他の公の財産は、・・・公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。」という条文がある。

「この条文を読むと、私学助成金は明らかに憲法違反です。・・・日本中のほとんどすべての私立大学が憲法違反の存在なのです。」と言い、自ら経営する学校も憲法違反の状態にあると言います。

指摘の通り、憲法には様々な不具合が数多く出来てきている。にもかかわらず一向に進まない憲法審議会、本当に国民の民意でしょうか。

話題の中心がすぐ憲法9条になる。しかし憲法は9条だけではない。多くの矛盾を放置し続けたことが無責任であり不道徳であると言います。

この本の中には、家族、沖縄問題、いじめ、児童虐待、ビジネス等、幅広く問題点を浮き彫りにし、警鐘を鳴らしています。

ビジネスの項目ではあるデパートを舞台に「急に雨が降ってきた時、傘の値段を上げるべきか、下げるべきか」という面白い雨傘議論があります。

日本人のあるべき姿を見直すきっかけとなるようなエピソードが数多くある。
是非、一読をおすすめしたい。

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Posted by 秀木石